FSC材のニーズが高まる中、安定した供給体制の確立とともに、価値を最大化するバリューチェーンの構築が求められています。九州電力は、九州地域で培ったネットワークを活かした木材のサプライチェーンの再編成によって、関係者が連携して価値向上を目指す仕組みづくりを推進。さらにグループ会社の九電不動産では、九州電力のFSC認証林の木材を原料としたLVL材を活用し、分譲マンション開発において国内初となるFSCプロジェクト部分認証を取得しました。グループ内外の連携を通じて発揮される、同社のリーダーシップに注目が集まっています。

お話を伺った方
九州電力株式会社 ビジネスソリューション統括本部 地域共生本部 産業創生グループ 次長 音成謙一郎さん ※写真左
九電不動産株式会社 住宅事業部 部長 有吉光希さん ※写真右
この記事でわかること
- 九州電力による木材バリューチェーン構築の経緯と現在地
- 九州電力のネットワークを活かした事例創出の取り組み
- 九電不動産のマンションブランドへのFSC 認証材の活用
2年前のワークショップを機に、木材流通の整理・可視化を推進
九州電力は、九州地区におけるエネルギー提供を担うとともに、100年以上にわたって森林事業にも携わってきました。地域における「持続可能な未来」の実現を命題に掲げ、再生可能エネルギーの導入拡大や、CO2吸収源である森林の循環利用の強化を通じ、カーボンマイナスの早期実現を目指しています。
こうした施策の柱の1つとしてFSC認証材の活用を掲げ、2005年には電力会社として国内初の認証を取得し、様々な取り組みを進めてきました。その活動がさらに加速したのは2024年。「FSC認証材の価値を高めていくためのアイデア創出ワークショップ」を三井物産と共催し、様々な関係者と議論する中で「バリューチェーン」の必要性を強く認識したことがきっかけだといいます。
「FSC認証材を安定的に提供するには、川上から川下までネットワーク化し、"流通の見える化”をすることが必要です。しかし、FSC材はまだ量が少なく、単体での実現はなかなか難しい。一方、地元である九州は国内の原木生産量の約4分の1を占める、高いポテンシャルを持つ地域。全国的にも木材価格の低迷や利用率の低さなどの課題があり、業界には複雑化した流通や高額なコストの改善が求められています。そこで、まずは足元の地域材から取り組むことにしたのです」(音成さん)

サプライチェーンについて、まず“川上”の供給側では、九州最大の民間林地を保有する日本製紙をはじめ、多彩な森林所有者と連携して材の確保を推進。ゆくゆくはバーチャルなアセット共同体の設立も構想しています。さらに需要と供給の結節点である"川中”にあたる製材所・合板工場、プレカット工場までを一気通貫でつなぎ、安定供給と経営効率の改善を目指すこととしました。
「現在は"仲間づくりの真っ最中”と言えるでしょう。まずは『需要量の1割程度から年間契約でお願いできませんか』と働きかけ、徐々に仲間と扱い量を増やしていきます。また九州電力でも、製材やプレカットなど加工事業への参入を検討しており、グループメンバーとのジョイントベンチャーによる実業会社の設立や業務提携も視野に入れています」(音成さん)
九州でのネットワークを活かし、FSC材・地元材の需要を高める
バリューチェーンの“川下”である需要側についても様々な取り組みが進んでいます。たとえば、木造で建てたいという施主や設計会社、ゼネコンや工務店に対して、木造建設の設計・施工・構造計算などを支援する体制づくりもそのひとつ。九州電力では地域共生・環境部門に加えて、インハウスの建築士を多数擁する土木建築部門が連携し、「コンストラクション・マネジメント」として事業参画を検討しています。また、外部の木材コーディネーター※とも連携し、住宅に加えて、拡大傾向にある非住宅木造ビル市場も積極的に開拓しつつあります。
※森林から木材の調達・加工・流通・建築・製品化まで木材バリューチェーン全体を俯瞰し、関係者間の調整や提案を行う専門家。資格制度もあり、木造住宅や非住宅木造建築の普及・品質向上に寄与する人材として、業界内で注目されている。

そして、営業活動についても、九州電力が長年育んできた地域ネットワークを活かして、新たな需要を掘り起こすものとして期待されています。
「九州経済連合会では以前から木材流通が課題であり、九州電力もその一員として関わってきました。同時に会員各社は九州電力にとってお客様でもあり、さらに九州各県の支店にも多くの顧客企業を擁しています。それぞれへの営業活動に同行して木造建築を提案をするようになり、複数のゼネコンや工務店との商談も進んでいます。実際、環境配慮やコスト面から、地域材やFSC認証材に関心を持つ方が増えてきた実感があります」(音成さん)
こうした営業活動の現場で得られる需要情報を、森林・木材製造の供給側へ迅速に共有することは、バリューチェーン構築の中でも重視されている要件の一つです。適切でタイムリーな情報共有によって、ニーズに合わせた生産の効率化が図られ、従来のプロダクトアウト型の木材生産で課題となっていた固定費や償却費の抑制が期待できるといいます。
こうした中で、FSC認証を活用する取り組みも積極的に展開されています。その1つが自社有林とアサヒビール社有林、諸塚村などの丸太を用いた、国内建材市場向け合板の開発・販売です。SMB建材の環境配慮ブランド「こことわ」を通じて24年より販売を開始しており、今後販売拡大を見込んでいます。
さらに、自社グループのマンションシリーズなどのプロジェクト認証取得や、バリューチェーンへの参加企業に対するFM認証・CoC認証の取得支援も推進。加えて、FSC認証林を活用したJクレジットの創出・販売にも取り組み、2025年には大手グローバルメーカーへの販売事例も生まれました。
「グローバルマーケットでは、FSC認証によって Jクレジットの訴求力が高まることを実感しています。九州産木材のバリューチェーンを整備し、その上でFSCを組み込みながら総量を増やしていきたいと考えています。構想の全体像はほぼ固まり、今後は具体的な実施案件を着実に増やしていくことが目標です。さらに、このコンセプトや知見を他地域と共有し、協力しながら日本全体の木材業界の活性化とFSC材の普及に貢献していきたいと考えています」(音成さん)
FSCを通じて「土地を尊重する思い」を、マンションブランドに昇華
九州電力ではバリューチェーン構築に加え、活用面でも多様な木造建築事例を生み出しています。グループ内で不動産開発事業を展開する九電不動産も、2023年の創業60周年を機に、不動産事業を通じた社会貢献のあり方を見つめ直し、九州産木材の利活用を強く意識するようになったといいます。
「不動産開発は価値を生み出す一方、もとの自然環境に大きな影響を与える側面もあります。そのため、環境課題の解決に積極的に取り組む必要性を強く感じるようになりました。また、ウッドショックなどで輸入材が高騰し、供給が不安定になった経験から、国産材の確保と活用の重要性も認識しています。環境保全と経済性の両立を模索する中で、熊本県水俣市の新栄合板工業さんと出会い、その取り組みに感銘を受けました」(有吉さん)
新栄合板工業は、国産桧・杉材を合板製品に加工する技術を有しており、地域材を有効活用することによって、九州の森林運営に寄与されています。一方、九電不動産でも、供給する分譲マンションにおける木材使用量の多い部位に、九州産木材を活用できないか検討を始めていたことから、「地域材を活かし、市場として成立させるパートナー」として関係性を深めることとなりました。
そして2024年より、同社のオール電化分譲マンション「グランドオーク」 で、住戸の間仕切り壁と天井下地に同社製造の九州産木材のLVL材を導入することを決定し、現在は5つのプロジェクトで使用されています。
さらに2025年11月に発表された、新ブランド「GROUNDI(グラウンディ)」では「土地を尊ぶ」のコンセプトのもと、九州電力が所有するFM認証森「くじゅう九電の森」の木材を活用したFSC認証材を開発し、導入を決定しています。その第一号となる「グラウンディ大濠」では、住戸内の壁と天井下地に FSC 認証のLVL材を採用しています。
「地域材に加え、FSC認証材の調達・加工においては、材の必要量の算定や加工スケジュール、現場工程に合わせた納品管理など、九電不動産がまとめ役となり、関係者間の調整を行いました。新栄合板工業さんはすでにCoC認証をお持ちでしたが、くじゅうの森に近い大分工場と、LVL加工のシンエイテクノウッドで新たに認証を取得いただき、サプライチェーンをつなぐことができました。私たちの思いが通じて仲間となっていただき、未来にもつながる大切な一歩になると確信しています」(有吉さん)

FSCは建築分野で森林課題に向き合うための「有効な選択肢」

九電不動産では、建造物への直接的な FSC認証材の活用に加えて、森林保全活動にも取り組んでいます。その一つが、九州電力が提供する「みらいの森を育てようプラン」の紹介活動です。電気料金に毎月300円を追加して収めることで、九電グループ各社が支援する「九電みらい財団」に寄付されるというもの。「九電みらい財団」への寄付を通じて、くじゅうの森を始めとしたいさはや九電みらいの森、きりしま九電みらいの森及びひさやま九電みらいの森での植林・育林、環境教育の実施や、くじゅう坊ガツル湿原一帯での環境保全活動などに活用され、循環型森林活用の一助になることを目指しています。
「こうした取り組みも含め、FSCの価値を自社のマンションと絡めてアピールするためには、FSCプロジェクト(部分)認証の取得が必要になります。審査対象は、現場に認証材が届き、施工・管理されているか、全工程で確実性が求められるため、関係者の密な連携が必要です。そこで独自のFSC対応マニュアルの作成に加えて、社内および商社や施工会社などすべてのプロジェクトメンバーへ教育訓練を実施しました。今後も永続的に対応できる人的基盤となることを期待しています」(有吉さん)
2025年11月に本審査を受審し、2026年2月にFSCプロジェクト認証を取得しました。これを受け、国産材・FSC認証材を用いた国内初(2026年2月現在)の分譲マンションとして、Webサイトやパンフレットなどを通じた情報発信を開始しています。
「最終審査は木軸施工後ですが、建物の完成を待たずにPRやプロモーションができるのは、建設業界への事情にも合っており助かっています。そして、今回の取り組みは、FSCが建築分野で森林課題に向き合う"有効な選択肢”と実感するとともに、汎用性が高く、建築分野でのFSC推進を広げる一手法だと確信しました。今後は私たちの知見や情報を業界に公開し、建築業界の環境保全活動に貢献したいと考えています」(有吉さん)
地域全体を俯瞰した九州材のバリューチェーン構築、そしてプロジェクト単位でのFSC認証材のサプライチェーンの整備。川上から現場まで、双方向かつ多面的なアプローチが進み、その内容が広報されることで、九州におけるFSC認証材活用に対して関心と熱意が急速に高まっています。今後、FSC認証材や国産材の価値を高め、その活用を促進するためにも、バリューチェーンのさらなる充実が期待されます。
※本稿は、2026年1月15日に開催されたイベントでの発表を、講演者の確認のもと再構成したものです。
認証取得者名:九州電力株式会社(FSC-C018956)、グラウンディ大濠(FSC-P002231)
