アサヒビール株式会社


王冠の森から始まったアサヒビールの15の森

©アサヒビール株式会社広島県北部の町、庄原市と三次市。隣り合ったこの二つの町にビールでおなじみのアサヒビールが所有する「アサヒの森」が点在する。森は全部で15ヵ所。アベマキの木が多く自生する山を選択的に取得したため現在のように点在する形になった。

ビール会社とアベマキの木、いささか奇妙な組み合わせに思われるかもしれないが、その昔、瓶ビールに使われる王冠といえば、内側にコルクが貼り付けられていたものが使われていた。時は1941年、アサヒビールの前身である大日本麦酒では、戦争の影響でコルクの輸入が途絶えたときに備え、樹皮にコルク質を多く含むアベマキの木に注目。コルクの供給元として取得されたアベマキの山が、現在のアサヒの森を形成している。

コルクの森からスギ・ヒノキの森へ

©アサヒビール株式会社コルクの確保という名目で取得された山だったが、戦後になると輸入コルクも以前のように確保されるようになる。実際にアベマキが王冠のコルクとして使われることはなかったが、コルクの生産林としての役割を終えたアベマキの森は、将来に向けて新たな森林経営の方策を摸索することとなる。時代は戦後の復興期。復興に沸く日本では木材の需要が急増し、政府は拡大造林政策を行って、スギ、ヒノキ、カラマツなど、成長が早く経済的に価値の高い針葉樹の造林を推奨する。こうした時代背景の中、総面積2165haに及ぶ15の山林を引き継いだアサヒビールでも、1955年からスギやヒノキの試験植林に取り組み始め、1960年頃から本格的な植林に着手する。

その後、木材の輸入全面自由化などの影響もあり、国内の林業は衰退の道へと向かう。全国的に林業離れが進む中、アサヒビールでは水質を浄化する水源かん養機能、土砂の流出や崩壊を防止する山地災害防止機能など、森林の持つ公益的機能を重視。この機能を健全に保つことが、地域に暮らす人々の豊かな生活につながるとして、〝健全な森〟を重視した森林の管理に取り組んでいく。その結果、1966年には、一部の山が水源涵養保安林として広島県の指定を受け、1995年までに15カ所の山すべてが水源涵養保安林の指定を受けることになった。

企業の森+社会性を持つ森へ

また、15の森のひとつ女亀山(めんがめやま)の山頂付近には樹齢100年を越すブナの大木が自生するブナ林があり、1987年にはこのブナ林を含む3.64haの森が「ブナ林自然環境保全地域」として広島県の指定を受けることになる。さらに1998年には二分坂山・曲谷山・黒口山の一部において県内6番目の県立自然公園として「神之瀬峡県立自然公園」の指定を受けるなど、同社の森は水質や景観といった公益的な社会性を持つ森と評価され、同社はこれを維持させる森林管理に取り組んでいく。

一般にこうした指定は森林を管理運営していく上で多くの制約を受けることが多く、時として森林経営の大きな障害となることも少なくない。しかし同社では、しっかりとした取り決めの中で森林を健全に管理していくことを選択。そこには、「健全な森林を維持するのは、水をはじめ麦芽やホップなどの自然の恵みを用いて事業活動を行う企業としての責任である」という同社の考えが大きく影響している。

新たな動きを見せる森

©アサヒビール株式会社こうした背景の中で同社は、2001年9月に国内で3例目となるFSC-FM認証を取得する。アベマキの森を取得してから60年目の新たな取り組みは、同社の知名度も手伝い業種を超えて大きく注目された。

FM認証取得後も同社では積極的な森林活用に取り組む。2003年には列状間伐を試験的に実施。一定の間隔を空けて森を列状に間伐する列状間伐は、機械による伐採や搬出の作業効率の向上とコスト削減を実現。さらに、これまで人力で行われていた作業を器械化することで、安全面も大幅に向上した。現在では従来の間伐方法に加え、4本分の列を残して2本分の木を伐採する「4残2伐」の列状間伐を山の状況に応じて実施している。

「当社の森は40年~60年林齢の面積が一番多いので、そこを中心に作業を行っています」。アサヒの森環境保全事務所の松岡洋一郎所長が、間伐材の搬出が終わり、保育期間に入った山を案内しながらアサヒの森の詳細について話してくれた。「アサヒの森は現在、25%の天然林と75%人工林から構成されています。人工林はヒノキが約75%、スギが約20%を占め、H25年からの5年間の森林経営計画では合計483ha、年間100ha前後の間伐を実施する予定です」。

間伐作業は三次市と庄原市の森林組合に加え、民間の素材生産業者に委託しており、FSCの年次監査での指摘事項は委託先にも随時共有しながら作業が行われている。利用間伐中心の施業で、ここ数年の間伐材に出荷量は2013年が約4000m3、2014年は約2000m3、2015年は5000~6000m3の見込み。間伐材は三次市の原木市場や製材工場に出荷され、建築材や内装材として加工されている。また、地元地域の加工委託業者と連携して間伐材グッズを製作し、間伐材の需要創出にも力を入れている。これまでにも看板や絵馬などの材料として活用されたり、アサヒグループが運営する外食店舗の一部にヒノキ割り箸を提供するなど、用途を開拓してきた。

木と話ができる人が携わる間伐材利用

©藤島斉そんなアサヒの森の間伐材グッズ作りに長年かかわってきた、広島県北部国産材加工協同組合の東理事長。東理事長を良く知る人は東氏を〝木と話ができる人〟と表現する製材の名人だ。

「製材は内科と外科を兼ねた名医でないと大損をする」と語る東会長が木と接したのは戦時中のこと。現在の加工場のすぐそばに軍の工場があり、そこで木製の飛行機を作っていたのが始まりだという。

「人間と同じで、場所が変われば木も変わります。同じサイズの木でも、90点の森と70点の森から出た木では材として使える量が変わってくる。それぞれの山の様子をよく知り、木が成長する過程でどのような性質になるかを知っていないと、外見だけでは計算が合わなくなります。医者に喩えれば内科だけでも外科だけでもダメ。その木がどういう性質の木なのかが分かってようやく木を挽くことができる。木はなかなかものを言ってくれないけど、木の声が分かるようになって、木が病みつきになりました」。

断面が丸い原木を四角として計算するのだから、そもそも難しいのだという東理事長。その難しい木を見事に製材する〝名医〟に対する同社の信頼は篤く、同社がオリジナル製品を作るときには必ず製作に携わる。

FSCを積極的に発信する

©アサヒビール株式会社FSCを応援する一般の消費者としては、木と話ができる人の手がけたFSCグッズのレパートリーをどんどん増やして欲しいところだろう。だが、同社の本業を考えると、そこばかりに力を注いでいるわけにもいかない。それでも、同社の中では、自社の森林でFSCを取得しているのだから、自社林の間伐材を有効活用する場合にはFSCのマークを入れてPRしていこうという声もあるという。そうした社内の声もあり、2014年年末、東京本社ビル隣のレストラン「フラムドール」のテーブル天板をアサヒの森から出た間伐材を使って製作。現在、店内にはFSCのロゴマークの入ったテーブルが並んでいる。

「FM認証を取得して13年が経ちました。認証を取得したことで環境保全に取り組む企業としてプラスのイメージにはなっていると思いますが、まだまだお客様にはFSCというものが認知されていないと思います」と、国内でのFSCの知名度を分析する松岡所長。 「ただ、世界で最も信頼できる国際的な第三者認証を取得しているということは、長年続けてきた林業経営が適切であったという証明でもあります。その意味で、FSCは弊社の環境への取り組みのシンボルであり、企業としての取り組みを発信していく上で重要なツールだと認識しています」と、FSCを位置付ける。 

確かにFSCは企業の取り組みを紹介する環境ツールとしては有効だ。だが、認知度がまだまだ低く、その力を十分に発揮できていないのが今の日本のFSCの現状である。そういう意味では、FSCの知名度がもっと上がることを期待しているというのが認証取得者に共通の認識ではないだろうか。「知名度アップに貢献できるのであればどんどんお手伝いしていきたい」と松岡所長は話していたが、消費者に馴染みのあるこうした企業のPRは確実にFSCの認知度を上げ、FSCの存在を次の段階に押し上げるだろう。

さらなる森林リノベーションへ

©アサヒビール株式会社2001年にFM認証を取得した同社だが、その後は以前にも増して積極的に森を活用している。例えば、FM認証に続いてCOC認証を取得した2005年には、全日空グループが主催する「私の青空〜広島空港・アサヒの森」に協賛し、15の森のひとつ赤松山に地元広島の子供と保護者を招いて環境教育を実施。翌2006年には甲野村山において環境教育プログラム「アサヒ森の子塾」を開催。地元の小学生を対象に行われたこのプログラムは以降毎年開催され、これまでに2000名近い子供たちが参加している。 

2008年には国内初の試みとして、林野庁近畿中国森林管理局との間で「森林保全活動」、「間伐材等の安定的な供給」、「森林の豊かな自然を活用した環境教育」の3つのテーマを推進する「甲野村山地域美しい森林づくり推進協定書」を締結。協定の一環として、次代を担う子供たちに向けた森林環境教育「森と水の学習会」がスタート、現在も続けられている。 

これら複数の環境教育プログラムを行う一方、2009年には「文化創造プロジェクト」に参画。「文化遺産を未来につなぐ森づくりのための有識者会議」の事業であるこのプロジェクトは、神社仏閣など大型木造文化財に不可欠な木材の調達に取り組むプロジェクトで、同社ではアサヒの森の俵原山5・44haを〝文化材〟として登録。新たな社殿の普請が行われるその日に備えている。 

2010年からは3年間の時間を費やして、森林生態系に関するモニタリング調査を実施し、生物多様性レポートを公開。2011年には環境省によるオフセット・クレジット(J-VER)取得し、1,375tのCO2クレジットの発行を受けた。 

このように、アサヒの森では、単に木材を産出するだけであった森林に、新たな価値観を見いだすリノベーション的な活動が活発だ。教育、文化財の継承、生物多様性…。同社のこうした動きは、これまで森に縁がなかった人たちを巻き込み、森について考える機会を与えてくれる。森と人をつなぐ一連の活動。人々が森に関心を持った後の世の中の動きを想像すると、同社の森をめぐる一連の活動が世界に広がることを期待せずにいられない。


文:藤島斉

基本情報

認証の詳細については名称をクリックいただくとご覧になれます。

【名称】
アサヒビール株式会社

所在地
〒727-0012 広島県庄原市中本町1丁目8−2

主な樹種
スギ、ヒノキ

【取扱製品】
原木、オーダーメイド加工品

問い合せ
原木については下記広島県森林組合三次木材共販所にお問い合わせください。

  • 電話番号:0824-62-0101
  • メールアドレス:moriren-miyoshi@hiroshima-moriren.or.jp

加工品については下記アサヒビール株式会社にお問い合わせください。

  • 電話番号:0824-72-0104
  • メールアドレス:yoichiro.matsuoka@asahibeer.co.jp
  • ウェブサイト
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