【森】客観的評価が証明した山梨県の森林管理の価値

30周年記念インタビューシリーズー

山梨県FSC-C012256

yamanashi_fujisan

山梨県は2003年、公有林として全国に先駆けてFSCの森林管理認証(FM認証)を取得しました。制度への理解促進や人事異動など、数々の課題を乗り越えながら20年以上にわたり認証を継続し、日本最大の認証面積を有しています。現場の安全、環境への配慮、社会からの評価、そして次なる課題へ――山梨県の県有林が歩んできたFSC認証の軌跡を追います。

山梨県様

お話を伺った方:

山梨県林政部(現 森林環境部)県有林課

課長補佐 青山将英さん(写真左)

副主幹 辻野新子さん(写真右)

主任 舩木昇さん

 

この記事でわかること。

  • 制度理解の難しさや業務増などに対する抵抗感を乗り越え、山梨県は公有林初のFM認証取得を実現した
  • FSC認証は森林管理の改善だけでなく、県産材の信頼性向上や山梨県のイメージ向上にも寄与している
  • 継続してきたモニタリングが客観的に評価され、森林管理の価値が改めて可視化された

公有林初のFM認証取得と、職員への理解浸透の壁

山梨県がFSC認証に取り組み始めたのは、林野庁から県に出向していた幹部職員の提案がきっかけでした。当初、県有林の管理業務が増えることなどに対して、職員の中では強い抵抗感があったたそうです。

再造林エリア
再造林エリア

そうしたなかで20034月、公有林としては全国に先駆けて、FM認証を取得しました。認証取得に向けた初期段階では、職員に制度の意義を理解してもらうことが最大の課題でした。県有林に関わる各出先事務所の担当者に対して、FSCとは何か、FM認証、CoC認証とは何かを丁寧に説明する必要がありました。

FSC認証は、認定を受けた独立した第三者認証機関が審査を行います。そのため、制度の本質的な意味を理解することはもとより、どの認証機関に依頼すべきかといった基本的な部分から、担当者たちは大きな戸惑いを感じていた状況でした。

現在山梨県森林環境部県有林課課長補佐を務める青山さんはさらに「認証制度の複雑さゆえに仕組みを理解するのが難しかった」のではといいます。

そのうえ、人事異動が多い県庁ならではの課題として、担当者が異動で変わるたびに初めてFSCを担当する人が年次監査に対応しなければならないということがあります。そのような中でも毎年きちんと対応し続けることで、20年以上認証を維持。県面積の約3分の1にあたる158haの県有林のうち、9割超にあたる144haの森林が認証を受けています。この認証面積は、日本最大の広さを誇ります(令和8年1月現在)。

議論を重ねて持続可能性を探る

審査の様子2
2024年審査の様子

 

認証取得後、最も顕著に変化したのは現場の安全装備と環境への配慮でした。作業員の安全装備については、当時の状況からすると高い水準での指摘を受けていましたが、現在では格段に改善されています。

青山さんは言います。

「ほかの監査と異なり、FSCの年次監査では議論をすることができるんです。耳の痛い話をされることもありますが、議論を積み重ねてお互い持続可能なところを探していければと思っています。」

木材販売から採用活動まで広がるFSC認証の効果

20年以上FSC認証を受け続けたなかで、その意義は、客観的な評価と対外的なアピール力にあると青山さんは言います。

「県産材を使ってくださるのは基本、山梨県民の方々です。それだけだと市場が80万人に限定されてしまいますので、県外を目指すことになります。そこでFSC認証は大きな力になります。」(青山さん)

「特にFSCPEFCPEFC森林認証制度相互承認プログラム)の認証材が多く使われた2012年のロンドンオリンピックを契機に、FSC認証への社会的注目度が大きく高まり、対外的なアピール力が飛躍的に向上しました。」

 

「また、木材販売の戦略的側面においても、世界的な認証制度であるFSC認証は山梨県の木材の信頼性を対外的に示す武器となっています。環境意識が高まり、持続可能な森林管理に関心を持つ企業や消費者が増加していることも、これを後押ししています。」

「県有林の良さを対外的に広めるとき、『FSC認証を取得しています』の一言で表現できます。」と、副主幹の辻野さん。

FSCを担当して2年目の舩木さんは、「この2年で社会の目も変わってきているように感じます。イベント出展時にFSC認証の説明をするだけで、企業からの問い合わせが増えます。企業の環境への意識が高まっているなか、ますます認証材の需要は高まるのではないでしょうか。」と言います。

こうした動きは、山梨県で生まれた認証材が、県内の木造公共施設、県外大手メーカーによる住宅、大手コンビニエンスストアの店舗等で使用される形で具体化しています。東京オリンピック・パラリンピックの関連施設でも採用されました。

山梨県のFSC認証材活用事例はこちら

 

さらには、職員の採用活動においても、就職希望者に対して環境に配慮した先進的な取り組みをアピールできるため、山梨県の森林、ひいては県のイメージ向上に大きく貢献しています。

こうした取り組みを通じて、FSC認証は山梨県の森林と林業の価値を対外的に効果的にアピールする、単なる認証制度を超えた戦略的なツールとなっているのです。

 

積み上げてきたモニタリングが評価され、自信につながる

山梨県の森林管理の評価において最も特徴的なのは、これまで長年にわたって築き上げてきた管理手法がFSC認証によって客観的に評価されたことです。

審査の様子
2025年審査の様子

「県有林の管理に携わってきた職員たちは、認証前から自分たちが築き上げてきた管理手法に強い自負を持っていた」と青山さんは語ります。

「山梨県は、FSC認証のためにモニタリングを始めたわけではなく、もともと継続的に森林の自然環境に対するモニタリングを行ってきた。その継続性こそが、県の大きな強みである」と年次監査の際に審査員から評価を受けたことが印象に残っていると辻野さんは言います。

職員たちは、山梨県の森林を長年にわたり丁寧にモニタリングしながら、様々な需要に応えてきました。FSC認証はこれに対して、外部の視点から客観的に評価したのです。

認証取得は、これまで「当たり前」と思っていた取り組みが、実は価値のある管理手法であることを再認識する機会となりました。長年培ってきた森林管理のノウハウが、国際的な基準で高く評価されたことは、県の職員たちにとって大きな自信となったのです。

「自分たちのやってきたことは正しいと胸を張れる。それがFSC認証の大きな意義の一つです。」(青山さん)

今後の課題と期待

今後の課題として3人が挙げたのが、FSC認証材の流通経路、今の日本社会情勢に対応した認証システムの確立です。

県有林の林内
県有林の林内

「世界に目を向けると、FSC認証材の付加価値が価格に反映され、地域などに還元されており、それを継続することがFSCの主旨とされているかと思います。しかし、日本ではその価値が十分に市場で評価されているとは言えません」と辻野さんは言います。県から民有林の所有者にFSC認証取得を勧めるときにも、明確なメリットを見出し難いことや流通経路の脆弱さが障壁となります。県有林の木材は認証されていても、県内にCoC認証のある加工施設は非常に少ないのが課題です。

「企業が認証材を使用することが、単なるCSRとしてだけではなく、調達方針に盛り込まれ、経営の根幹に直結する時代がきています。それに対応できる体制、認証材の流通経路の構築が求められていると思います。また、その道筋となる情報をFSCジャパンさんから提供していただきたいですね。」(青山さん)

舩木さんは、公有林特有の課題もあると言います。

「企業の環境への取り組みが活発になって、需要が増えたとしても、公有林は計画に沿って動くので臨機応変に対応する事に限界があるのが実情です。FSCジャパンには、このような事情のほか日本の林業の特性をより深く理解して、課題へアプローチしていただきたいです。」(舩木さん)

社会情勢が急激に変化する今だからこそ、これまでの丁寧な森林管理を継続しながらも、柔軟に対応していくこと。日本で最大の面積を誇る認証取得者として、対話を続けながら先を見据えた挑戦は続きます。