TNFDTaskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)という言葉を聞いたことはありますでしょうか。こちらのページではTNFDの概要とFSCとの親和性について紹介しています。

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気候変動によって生態系や自然災害のリスクパターンが変わってきている

毎年のように10年に一度の災害という言葉を聞くようになり、天気予報でも「観測史上最も…」という表現をよく耳にし、ゲリラ豪雨、線状降水帯という用語が当たり前に受け入れられるようになっている今、私たちも普段の生活の中で気候変動の影響を感じる機会が増えています。災害だけでなく、温暖化による海水温の上昇に伴い、獲れる魚が変わってきているという話もよく耳にするようになりました。

国外に目を向けると、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパでも大規模な森林火災が何週間も続き、主要な森林消失の原因になっています。

このような生態系の変化や自然災害のリスクパターン変化は、経済活動を行う企業にとっても、無視できないものとなっています。

保険会社ではこれまで想定されていた被害規模を大きく超えた被害が発生すると、予想外の損失となってしまう一方で、例えば、市街地に出てきたシカなどの野生動物と車が衝突する事故への対応など、従来は存在しなかった保険のメニューの需要が出てきているという側面もあります。

金融機関にとっても投融資基準として、対象企業の自然災害に対する脆弱性や強さは、重要な要素の一つです。

TNFDの設立

気候変動の分野では201512月に採択されたパリ協定を受け、金融業界を中心に、気候変動が投融資先の事業活動に与える影響を評価する動きが世界的に広まっています。このような中、G20財務大臣及び中央銀行総裁の意向を受け、金融安定理事会(FSB)がTCFDTask Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)を設立しました。

TNFDは気候変動だけでなく、より幅広い「自然」対象としたいわばTCFDの自然版として、2021年に設立されました。

TCFDTNFDは、世の中のお金の流れをネイチャーポジティブに内容を変えていくことを目指しています。

企業はTNFDを通じて何を開示するの?

TNFDは「自然」と自社の事業の関わりの開示を求めています。

わかりやすい例としては、工場が河川沿いに位置する場合に、河川の氾濫リスクが高まっているのか、それとも護岸工事などによってリスクが低くなっているのか、という直接自身で知り得る情報もあれば、一方で原材料が森林などの自然に由来する場合に、今後も安定供給されるのかといったリスクについては、サプライチェーンをさかのぼった情報収集が必要です。TNFDでは自然関連の情報を収集するためのLEAP*(リープ:LocateEvaluateAssessPrepareの頭文字)という枠組みを用意しています。

*リープ:以下のLocateEvaluateAssessPrepareの頭文字

Locate(発見):自身の事業と自然との関わりを見つける

Evaluate(診断):自身の事業の自然への依存と影響の関係を診断する

Assess(評価):自身の事業が自然に与えるリスクと得られる機会を評価する

Prepare(準備):リスクと機会への対応策をまとめ、情報を公開する

FSC認証とTNFD

現在FSC認証を取得している企業やこれからFSC認証を取得しようと考えている皆様にとっては、まず以下のような点が気になるのではないでしょうか。

FSCTNFDってどの程度親和性があるの?

FSC森林管理(FM)認証を取得しているとTNFDの取組みに役立つの?

FSC CoC認証を取得しているとTNFDの取組みに役立つの?

そこで、これらの疑問について南三陸町のFSC認証林でTNFDパイロットプロジェクトを実施した南三陸森林管理協議会 事務局長の佐藤太一氏とWWFジャパン自然保護室 金融グループ長の橋本氏に2023年9月19日にインタビューを行いました(以下、敬称略)。パイロットプロジェクトの報告書はこちら

佐藤太一氏

佐藤 太一 氏

南三陸森林管理協議会 事務局長/株式会社佐久 専務取締役

橋本 務太 氏

橋本 務太 氏

WWFジャパン 自然保護室(金融 グループ長)

今回TNFDパイロットプロジェクトに手を挙げたきっかけはなんですか?

(佐藤)別のプロジェクトでブロックチェーンを用いた木材トレーサビリティの仕組みに取り組む中でTNFDの話を知り、FSCとの親和性を直感的に感じたことから、TNFDについて調べはじめ、WWFジャパンの橋本さんとも議論をした中で生産者側から情報提供をするという観点で、すでにFSCを通じて収集、取りまとめをしている情報がどれだけ役立つのかやってみたくなったことがきっかけです。

パイロットプロジェクトを実施した結果、FSC森林管理(FM)認証を取得しているとTNFDの取組みに役立つと思いましたか?

(佐藤)FSC FM認証のために収集している情報は、素材として十分にあり、これらを少しTNFD向けにまとめ直すことでTNFDが求める情報開示に十分に役立つと分かりました。またパイロットプロジェクトを通じてTNFD側が示している情報の示し方を学べたことは非常に参考になり、今後のFSC認証における情報の取りまとめ方にも反映できると感じました。

(橋本)FSC認証林の管理者であれば誰もが収集している情報と、南三陸森林管理協議会特有の情報があるので、それらを整理することは気を付けましたが、概ね佐藤さんの言われる通り、FSC認証を通じた情報収集で十分に情報の素材は集められていると分かりました。WWFジャパン発行の報告書には、TNFD v0.4時点のLEAPプロセスについてFSCのどの基準に情報の素材が含まれるのかを示した対応表があります。

FSCとLocate
FSCとLocate(発見)との整合性。太字は特に関係の深い基準。(出展:WWFジャパン)
FSCとEvaluate
FSCとEvaluate(診断)との整合性。太字は特に関係の深い基準。(出展:WWFジャパン)

わかる範囲でよいのですが、FSC森林管理(FM)認証を取得しているとTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォースの取組みに役立つと思いますか?

(橋本)FSC FM認証はあまり直接TCFDには関係していないと思います。TCFDでは二酸化炭素排出量の開示が求められますが、FSC FM認証の基準には二酸化炭素排出に関するものはありません。ただしFSC FM認証林では森林転換がないことや持続可能な水準を超えた伐採がないことは保証されるため、これらの情報は使えると思います。

LEAPに基づく情報提供をすることによって、FSCにはない考え方に気が付くような事例はありましたか?

(佐藤)TNFDを通じて知った「リスク」と「機会」のマグニチュード分析の手法は、本来FSC FM認証取得者も同様にやると有益だと思いました。

例えばHCV(高い保護価値)に対する脅威を特定する、林業が引き起こす可能性のある自然災害を特定する、という要求事項が求めている内容だけで終わるのではなく、HCVへの脅威や自然災害の発生頻度と影響の大きさで対応の優先順位をつけるということをFSCの基準が求めるようにした方がよいと感じました。FSCの基準がこのような手法を紹介してくれることで、認証取得者もFSCを取得してよかったと感じることが出来ると思います。

(橋本)パイロットをしてみた体感では、林業施業が与えるインパクトの範囲について、TNFDの方がより海への影響などまで幅広く見ることを期待している感じは受けました。FSCにも水系への繋がりや景観に関する基準はありますが、FSCはより認証林外への影響について目を向ける必要があり、少なくともTNFDでは認証林外への影響についても情報が求められる可能性があると感じました。

(佐藤)TNFDではリスクだけではなく、ネイチャーポジティブに寄与する活動の開示も求めていますが、FSCの基準はどちらかと言えばリスクを特定して、特定されたリスクにどのように対応するかという視点になりがちなので、よりネイチャーポジティブに寄与する活動が目に見えるようにするとよいと思いました。特に地域ごとの取組みが評価される指標だと思うので、各認証取得者の特色がでて有益な基準となると思います。

(橋本)例えばTNFDから見ると、潜在自然植生の回復や人工林の広葉樹化、混交林化などは、現在そのように表現をしていないだけで、FSCの基準の中で明確にネイチャーポジティブに寄与する部分かと思います。

FSC CoC認証を取得しているとTNFDの取組みに役立つと思いますか?

(橋本)FSC認証原材料についてはトレーサビリティが比較的取りやすいことが一番ではないかと思います。FSC側もトレーサビリティ強化を進めていると聞いているため、今後FSC認証原材料のトレーサビリティはより確認しやすくなると思います。

FSC CoC認証取得企業にとって、森林由来原材料におけるFSC割合を増やし、究極的には100%にすれば、TNFD開示における原材料調達のリスクは排除されていると言ってもよいと思いますか?FSC認証原材料であっても懸念されるリスクはありますか?

(橋本)FSC認証林では責任ある管理がされているためリスクが低いことは間違いないです。しかし深層崩壊を引き起こすような大雨や人為努力ではどうしようもないような病虫獣害もあり、また周囲の認証を取得していない森林から受ける影響もあるため、リスクがなくなることはありません。

今後のTNFDの国内外の展望をお聞かせください。

(橋本)数年後にはTCFD同様に少なくともプライム上場企業には自然との関わりに関する情報開示の義務化がされることを期待しています。これはTNFDに限ったものではないかもしれませんが、少なくともTNFDに準じたものになると考えています。

特にEU内企業との取引がある場合は自然関連情報の開示が求められると考えています。またTNFDフォーラム加盟企業の約1割が日本にあることからもわかるように、日本は世界でもTNFDに関する取り組みが最も活発な国の一つですので、日本における情報開示の義務化議論も進むと期待しています。

(佐藤)自然資本との直接の関わりを持つのは一次産業従事者なので、FSC FM認証を取得していることが自然情報開示の上で役立つ時代がすぐに来ると期待しています。

FSCジャパンからのコメント

今回のインタビューを通じて、FSCとしてもTNFDから得られるものが多くあることが分かりました。FSC関係者としてTNFDが求めるもの理解し、国内森林管理規格の改定プロセスを通じて、有益な考えを柔軟に取り入れることでFSC認証自体の価値をあげることもできると感じました。