【森】新時代にも持続的な林業を目指して 「木を使う時はFSCを」という文化を作りたい 〜浜松市 天竜林材業振興協議会の取り組み〜

30周年記念インタビューシリーズー

天竜林材業振興協議会(FSC-C057369

浜松市様

日本三大人工美林のひとつである、浜松市の天竜美林。歴史あるブランド「天竜材」の11本に付加価値を高め、林業を生業として存続させたいという思いから、20103月にFSC FM認証を取得しました。現在は、約8000人の森林所有者の賛同を得て認証面積は49859ha202510月)に拡大。FSC CoC認証取得者との連携によるサプライチェーンの構築により、安定した木材供給を実現しています。2020年には東京2020五輪関連施設への納材など多数の成果を上げました。引き続きFSC認証を核に地域が連携し、「木を使う時はFSC」という文化づくりに挑んでいきます。

浜松市

お話を伺った方:

浜松市 林業振興課

藤江 俊充さん(現在は観光シティ・プロモーション課)※写真左

枝窪 圭人さん※写真右

 

この記事からわかること

  • 浜松市のFSC認証取得の目的と背景

  • 認証取得により、新たな販路開拓が実現。

  • 今後は「環境ビジネス」への展開も視野に。

「林業を生業として持続する」というビジョンのもと、FSC認証の取得へ

静岡県浜松市天竜地域を中心に広がる「天竜美林」は、室町時代に植林が始まり、500年以上もの長い間、何世代にもわたって育まれてきた人工林です。江戸時代には天竜川の水運を利用し、スギやヒノキなどの「天竜材」が江戸城や諸大名の屋敷に使われ、昭和の戦後復興期にも住宅需要に応えるなど、全国的に知られる木材産地として発展してきました。

2010年に天竜林材業振興協議会がFSC FM認証を取得し、市町村別では日本一の認証面積を誇るまでになりました。現在は、新しい時代に向け、持続可能な森林経営のモデルとして注目されています。

認証取得のきっかけとなったのは、同じく日本三大人工美林のひとつである三重県尾鷲美林において、速水林業が2000年に日本で初めてFSC FM認証を取得したことでした。同志でありライバルの取り組みに刺激を受け、所有する山の木を自ら伐る「自伐林家」の集まりである「天竜林業研究会」が、認証取得に向けて調査や研究を開始することになったのです。

その後ほどなくして2005年に浜松市は12の市町村が合併し、現在の広域市となりました。合併前の浜松市には山林がほとんどなく、主な林は海岸の防災・防風林のみでしたが、合併によって日本三大人工美林のひとつである天竜美林を有することとなり、市としても林業のあり方を改めて考える必要がありました。

そこで、市における林業の最上位計画となる「浜松市森林・林業ビジョン」が策定され、行政だけでなく、林業家や森林組合、製材業者、流通関係者など、地域の多様なステークホルダーが参画し、協力しながら議論を深めていったといいます。

当時から市の担当者として携わってきた藤江さんは、次のように振り返ります。「国の方針としては『新生産システム』と呼ばれる大規模製材工場による大量生産が推奨されていました。しかし、浜松市の林業はそうした量産型ではなく、枝打ちなどを丁寧に行いながら森を育てるというもの。その形を次の世代に引き継いでいきたいという思いが強くありました。しかしこれまでと同じことをしていては先細りになってしまう。そこで量より質、つまり11本の木に付加価値をつけて販売することを重視しようという結論に至ったのです」。

それぞれの思いが一つになり、「林業を生業として持続させる」というビジョンが共有される中で、林業研究会でもFSC FM認証取得への機運が再び高まりました。認証の取得を目指す方針が盛り込まれ、具体的な動きが始まります。

他にも認証制度はありましたが、浜松市が政令指定都市となり、国際都市を目指す上でも国際認証であるFSCが有効という判断となり、取得を目指していくこととなりました。

FSCって何やるで?」からはじまった説明会で8000人の賛同を得る

2007年に計画が策定され、FSC FM認証を取得できたのは20103月のことでした。その間、藤江さんら市が最も苦労したのは、林業の作業内容を「明文化」することだったといいます。

「計画の策定自体はスムーズだったとはいえ、FSC FM認証では植林や下刈り、間伐などの山の作業を具体的に文章化し、それに基づいて実施し、PDCAサイクルを回すことが求められます。そこで、天竜林業研究会に協力を仰ぎ、現場の声を丁寧に聞き取りながら、一つひとつの作業を文書化していきました」(藤江さん)

そして、もうひとつ、藤江さんが大変だったこととしてあげるのが、FSC認証取得について森林所有者の同意を得ることでした。現在では約8,000人から同意書を集めることができており、これは6つの森林組合との連携によって実現したものだといいます。

「当初からFSC認証を希少価値として扱うつもりがなかったので、数人の自伐林家だけでなく、地域全体で取り組む方針を掲げていました。ただ、最初は森林所有者さんも『何をやるんだ?』という反応で、認証取得にかかる費用や丸太の価格への影響など、不安の声が多くありました。そこで5年に一度の森林施業計画の説明会に合わせてFSCの説明会も開催し、その場で納得していただいた方々から同意書を集めるという地道な作業を重ねていきました。森林組合の皆さんには本当に大変なご苦労をおかけしたと思います」(藤江さん)

そうした努力のかいもあり、グループ認証によってリーズナブルに取得が可能となり、さらに森林組合がまとめて費用を出すことで、森林所有者の直接的な経済的負担を軽減することができました。ただし、丸太の価格については、そう簡単にいきませんでした。

「認証を取得したからといって必ずしも高値で売れるとは限りません。FSCの価値をエンドユーザーが理解し、選んでくれるようになることが重要です。だからこそ、まずは同じ価格であっても、付加価値がある方を選んでもらいましょう、そして天竜材の良さを知って選んでもらいましょう、そこを目指しませんか、と説明した記憶があります」(藤江さん)

FSCをきっかけに、サプライチェーン構築や新たな販路開拓が実現

FSCを知ったとき、エンドユーザーは何をメリットと感じるのか──。認証取得前には、そうした議論が繰り返し交わされていたといいます。しかし、その答えを実感するよりも先に、FSC認証の取得を通じて、想像以上に多くのメリットがもたらされたといいます。

そのひとつが、地域のサプライチェーンの実態が明らかになったことでした。以前は行政としても、誰が国産材を扱っているのか、どの企業が天竜材を使用しているのかを、ほとんど把握できていませんでした。しかし、FSC FM認証の取得に伴い、FSC CoC認証を取得した事業者が明確になり、山から製材、流通までのつながりを可視化できるようになりました。

「それまでの林業は、製材所や森林組合、流通業者、工務店などがそれぞれ個別に活動しており、いわば個人戦のような状態でした。それがFSCという共通のキーワードを軸に、地域の関係者が一つのテーブルにつき、顔を合わせて話し合えるようになったのです。森林の合併こそありませんが、FSC認証の取得によって作業様式の統一や技術連携が進み、隣接する森林組合同士の活動内容も共有されるようになりました。これは地域として林業技術の向上にもつながっています」(藤井さん)

また、製材業界では「水平連携協議会」というグループが立ち上がり、東京2020五輪の有明体操競技場への納材など、大型案件にも対応できる体制が整いました。これは一社単独では難しく、FSC認証を通じた"団体戦”の成果だといいます。

製材所
地域の製材所に納品されるFSC認証材

 

それからもうひとつ、2022年からFSC担当となった枝窪さんは、「環境意識が高い企業や法人との交流が広がり、販路が広がっていること」をあげます。


SDGsなど社会的に環境配慮やサステナビリティへの関心が高まる中で、環境意識が高い企業が増えています。そうした企業との出会いは本当に貴重なものです。たとえば、SMBCさんにお声掛けいただいた企業に市の取組みや自伐林家の話を聞いていただくビジネスマッチングイベントの開催や、大阪万博関係でATC(アジア太平洋トレードセンター)のWOOD MEETSに出展させていただくなど、市外に売り出していくときのきっかけはFSCでした。スターバックスさんとも意気投合して、お店でFSC講座やワークショップを開催させていただいたこともあります。これまで接点がなかった方々にアピールする際、FSC材を活用できることは大きな強みで、協力者を得たり、提案のきっかけになったりします」(枝窪さん)

そして、選定・採用の段階においても、企業や自治体ではグリーン調達が浸透しつつあり、トレーサビリティや環境負荷の低減、法令遵守など、調達の根拠を明確に示すことが求められています。そうした中で、「選ぶ理由」として明確に提示できることもFSC認証の大きなメリットです。

このような付加価値は、今後ますます重要性を増すと考えられます。だからこそ、藤江さん、枝窪さんも「私たちにとってFSC FM認証を取得し活用する最大の目的は、『森を守る』という環境保全のためだけではなく、林業を生業として持続・発展させていくことにある」と言い切ります。

FSC認証の取得によって、山での安全装備が整い、飛翔性の生物への配慮が進むなど、作業員の意識は確実に変わってきました。ただ、認証はビジネスに活用してこそ意味があると考えています。国産のFSC認証材はまだ3%と少なく、FSCとしては憂慮すべき状況ですが、私たちにとって希少性は強みです。もちろん、林業は時間がかかる事業で、本質的な成果につなげるには相応の年月が必要です。それでも今できることはもっとあるはずで、FSCを軸に、林業を持続的な"生業として変革し、好転させていきたいと考えています」(藤江さん)

ステークホルダーの連携によって「FSCが当たり前」の文化を醸成したい

「まだまだこれから」という中で、林業は外的にもグローバルな社会情勢の影響を受け、厳しい環境下にあることは間違いありません。さらに国の政策では「所有」と「管理」を分離する方向で、組織的に山を守る体制づくりが進んでいます。しかし、藤江さんは「それが本当に持続可能な選択なのか、甚だ疑問を感じている」といいます。

「現状では国からの補助金や手数料に頼っており、それらがなくなったときに同じ体制で森林を守り続けられるとは思えないのです。知見の蓄積や人材育成など、現場の実行力を高めるためにも、林業が若い世代の就職先として選ばれる魅力ある産業にしていかなければなりません。そのための方法のひとつとして、ビジネスとしても成功させることが大切だと考えています」(藤江さん)

地域にサプライチェーンが構築され、FSC認証材を安定して提供できる体制が整った今、浜松市が特に力を入れているのがマーケティングやプロモーションです。展示会への出展やFSC関連企業同士によるビジネスマッチングの推進に加え、学校への出前講座の開催、市長・市職員の名刺へのFSCマークの印刷など、地道なPR活動にも積極的に取り組んでいます。

さらに、市内では住宅助成事業や公共事業へのFSC材の採用を通じて、認証材の活用促進にも力を注いでいます。浜松城や浜松こども館、浜松中部学園など、天竜材を使ってFSCプロジェクト認証を取得した事案も着々と増えてきました。

浜松城
浜松城 FSC-P001847(2020年、認証範囲:3階の床材)
浜松こども館
浜松こども館 FSC-P001854(2021年, 認証範囲: 遊具・床、壁等)

 

「浜松市ではFSCの認知度はかなり高まりましたが、日本全体では海外に比べてFSCの認知率がまだ低く、あらゆるステークホルダーが協力してPRする必要があると感じています。FSCを取得する、価値を知ってもらうという段階から、選ばれ、使ってもらう段階へと進めていきたい。そのためには、レジ袋ではなくエコバッグが当たり前になったように、"木を使うならFSCが当たり前”という空気感を社会に根づかせることが大切ではないでしょうか」(藤江さん)

今後は、木材という商材だけでなく、企業や個人が森林整備費を支払う対価としてカーボンクレジットを受け取る「環境ビジネス」への展開も視野に入れているといいます。国際認証であるFSCの森であれば、ユーザーにとっても信頼性と価値のある取り組みとなるでしょう。

「育てる林業から、売る林業へ」──FSCを軸に、天竜林と産業、消費者をつなぎ直す挑戦は、次のステージへと歩みを進めています。