木材を選ぶことは、森を選ぶこと。それが豊かな地域と健やかな環境を未来へ引き継ぐための力になる──。その信念のもと、株式会社中村製材所は、2006年に取得したFSC認証材を軸に、九州産材・国産材の可能性を探求し、多様な空間を演出する付加価値の高い資材として提供しています。単なる木材供給にとどまらず、「どんな森で生まれた木か」という視点を重視し、持続可能な木材選定と高品質な製材技術を両立。地域の森で生産される木材に、FSC認証という「確かな信頼」と「魅力ある物語」、そして「独自の価値」を与えて提供することで、"選ばれる材”としての価値を高めています。
お話を伺った方:
株式会社中村製材所 代表取締役 中村展章さん
この記事からわかること
持続可能な木材提供に取り組んできた中村製材所の軌跡
FSCを軸とした共創によるサステナブルなサプライチェーンの可能性
FSCを基盤として自社独自の価値を付加した製品開発の事例
価値を訴求するため「自分たちに必要だから」取得したFSC認証
輸入材への依存度が高い日本の木材需要。多くの仲介者を経る海外からの木材調達においては、構造的に意図せず違法伐採材を取り込んでしまう恐れがありました。1950年に創業した中村製材所の三代目であり、現在は代表取締役を務める中村展章さんが木材業界に入った1990年代後半も状況は変わらず、強い課題意識を抱いていたといいます。
「当時、外国産材の比率は高まる一方で、2002年には8割を超えていました※。海外への買い付けでは、違法伐採材が混じる可能性を否応なく実感させられていました。無策では、いつか知らぬうちに違法行為に加担してしまうかもしれない。そのリスクをどうしたら回避できるのか、本当に信頼できる木材を手に入れる方法はないのか。そうした問いから、解決策を模索するようになりました」(中村さん、以下同)
そこで中村さんがまず目を向けたのが、国産材の利活用でした。さらに地元の材なら、どの森でどのように伐採されたのかを把握しやすく、活用することで森の健全な循環を促し、地域の豊かさにつながると考えたからです。
手始めに、地元の小中学校でスチール製だった学童机を木製に置き換える事業に取り組みました。しかし、数年後に事業の内容や成果に関係なく一律で補助金がカットされる経験をし、「正しく評価してもらえない」という悔しさを味わったといいます。
「もう、がっかりしましたね(笑)。でも同時に、環境への配慮や地域循環といった社会的な価値をきちんと評価し、伝えるための枠組みを使う必要があると痛感しました。そんな時にFSC認証に出会い、まさに求めていたものだと確信しました。だから、外部から勧められたわけではなく、木材を扱う上で透明性や持続可能性を担保する方法として“自分たちにとって必要だった”から採用したんです」
中村製材所がFSC CoC認証を取得したのは2006年。九州では、宮崎県諸塚村(2004年)、九州電力社有林である九州林産(2005年)などに次ぐ、早い段階での取得でした。
共感から共創へ―FSC材の活用は新たなステージへと進化
「自分たちにとって必要だったからこそ」取得したというFSC認証。そう語る中村さんですが、社会全体で環境配慮やサステナビリティへの理解が深まるにつれて、その価値が共有され、相対的な評価が高まっている実感があるといいます。
「小さな改定はあれど、FSCの理念や価値は創設当初からほとんど変わっていません。しかし、SDGsなどの広がりを通じてFSCへの理解が深まる中で、企業や団体で対応や取り組みには大きな変化が現れるようになりました。かつては共感してもらうのが精一杯だったのが、現在は共創のステージへと進んでいます」
その大きな潮流を実感する機会となったのが、2023年12月に全国5都市・計6回にわたって開催された「FSC認証材の価値を高めていくためのアイデア創出ワークショップ」でした。九州電力と三井物産の共催のもと、FSC材活用の川上から川下まで認証取得者や多様なステークホルダーが一堂に会し、FSC認証材の価値をさらに高めるための実践的な戦略やアクションプランを議論する場として実施されたもの。中村さんも一員として参加し、大いに刺激を受けることになりました。
「皆さんとワークショップをご一緒する中で、FSC材の価値を評価してもらう仕組みをみんなで協力して作り上げようという動きを感じました。実現すれば、消費者への訴求はもちろん、サプライチェーンやステークホルダーで連携しながら課題を解決し、企業や自治体などとも協働しやすくなるでしょう。利用者が増えれば、参加者も増えるはずで、そうすればもっと多様で大きな価値を生み出せます。そうした連鎖に大いに期待するとともに、『やらなければならない!』と強く感じました」
中村製材所では、九州電力や諸塚村などFSC認証取得者同士の連携により、これまでも様々な価値を生み出し、スターバックスの九州エリアの店舗にも地域材を提供してきました。その連携・共感を発展させ、国内の多様なステークホルダーが共創できれば、さらに多様な価値を創出できるでしょう。
事実、FSCが浸透している国々では、サプライチェーンが連携し、企業や行政などにおける資材調達の"デフォルト”として定着しています。国内においても、大手企業や自治体などを中心に、パートナー選定の前提としてサステナビリティを重視する動きが広がる中で、FSCが重要な評価基準の一つとなりつつあるのは間違いありません。その本質が理解され、評価指標の1つとして認められることで、パートナーとして選ばれる機会も拡大すると考えられます。
「サステナビリティは、これからは“やっていて当たり前”になり、その上で『何を付加価値として語れるのか』が問われる時代になります。それを自分たちの言葉で語れなければ、パートナーとしての価値も認めてもらえない。そんな局面が必ず来ます。FSCは信頼性の高い指標であり、同時に物語としての付加価値を提示できる。そうした強みを活かして、皆さんと共に新しい価値を作っていきたいと感じました」
FSCという共通基盤上で「独自の価値」を創出することが強みに
環境配慮が“当たり前”となり、その評価においてFSCが信頼性の高い指標として機能する時代が到来しつつあります。しかし、そうした環境が整ったとしても、その枠組みに乗るだけで事業の成長や拡大が約束されるわけではありません。企業が持続的に発展するためには、FSCという共通基盤の上に「独自の価値」を重ねることが求められます。そこではじめて事業としての優位性が発揮されるのです。
中村製材所においても、製材だけでなく様々な事業や取り組みを展開しています。例えば、国産の地域材を活用して開発した突板※『SKINWOOD®』もその一つ。森に負担をかけない若木(小径の木材)を薄くスライスしたもので、天井や内壁、家具などの表面に用いることで、美しい木目を活かした意匠が可能となります。

「環境配慮や地域社会への貢献はもちろんのこと、製品としても、小径木のような活用方法が限定されている木材を美しい素材へ変え、地域材やFSC認証材のデザインの幅を広げるなど、高い付加価値を備えています。こうした製品開発と生産を可能にしているのは、長年培ってきた当社の製材技術と地場に根ざした組織力があってこそ。特許取得に加え、不燃性については大臣認定を受けており、近年では、抗菌・抗ウイルスといった機能も付加しました。技術と機能の進化を重ねながら、製品価値を持続的に高めることを常に意識しています」(中村さん)
そして昨今、新たな挑戦として注力しているのが、FSC認証の「木材由来ウッドプラスチック」です。国内の広葉樹のなかでも活用方法が限定されている木材を原料とし、プラスチックと混ぜ合わせることで、造形性に優れた木質素材として開発しました。2024年8月に試作品を発表して以降、循環型素材としての可能性を広げています。

「もともとは、宮崎県諸塚村の原木シイタケの栽培に使われているクヌギの未利用材を原料として開発しました。育ちすぎたものや、担い手不足で行き先を失ったものなどを活かす方法を模索することから始まり、2010年には、板材として活用できないか、様々なパートナーと共に取り組みました。しかし、製作段階での課題が多く、形にはできたものの、安定供給は難しいと判断しました。そこから16年、新しい技術と出会うことで活路を見出すことができました。今後はさらに環境価値を高め、活用範囲を広げたいと考えています。そのためにも、今後は販路拡大や事業パートナー探しに加え、製造コストの抑制などが課題です」(中村さん)
地産地消をベースに、資材の選定に「森を選ぶ価値」を付加する
中村製材所で製造されたFSC材や『SKINWOOD®』、「ウッドプラスチック」などへの問い合わせや採用は、着々と増えてきました。たとえば、佐賀県庁や佐賀市役所などの地元自治体のほか、アイウェアメーカーのJINSの店舗などでも『SKINWOOD®』が採用され、「柾目が美しく、木の香りにも癒やされる」「認証材、地域材の活用はSDGsとしても望ましい」といった声が寄せられています。
さらに2025年には、東京・飯田橋のホテルメトロポリタン エドモントに新設されたランドリーラウンジに『SKINWOOD®』が採用されました。売上の一部が東京都の檜原村木材産業協働組合へ寄付される仕組みとなっており、製品の採用を通じて地域の森林や林業を支える循環も生まれています。
「環境に配慮した材を使うといっても、大規模なプロジェクトでは、一人ひとりがその意義を"自分ごと”として捉えるのは難しいものです。しかし、自分たちの選択によって、木の温かみを感じられる魅力的な空間が生まれ、同時に森を育む力につながっていく。そう実感できることが大切だと思っています。さらにパートナーである森林関係者にとっても、自分が携わった木がどこでどのように使われているかを知ることは、仕事への誇りにもつながるはずです。こうした『ソーシャルインセンティブ』を提供できることは、私たちの強みであり、FSCを軸にした共創があるからこそ実現できる価値だと感じています」(中村さん)
中村さんが冒頭で語ったように、環境配慮や地域活性化の観点から見れば、地元の森で育まれた木材が、地産地消で活用されることが理想的な形といえるでしょう。一方で、多様化する社会のニーズに応えていくためには、地域を越えたサプライチェーンが必要となることも事実です。そうしたなかで、中村製材所のように生産地と消費地の間に立ち、FSCという共通言語をもって双方を丁寧につなぐ存在があれば、分断されがちな両者を結びつけ直し、新たな循環を生み出すことも可能になるでしょう。
FSCを軸に、サステナブルな木材活用を志す多様なステークホルダーと共創しながら価値を育て、その循環を社会に広げながら、森へと還元していく。中村製材所は地元に根ざしながら、共創の輪を広げ、そのなかで、森と人、地域と未来をつなぐ存在であり続けようとしています。
認証取得者名:株式会社中村製材所(FSC-C022549)
