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2025年5月30日、FSCジャパンは、第19回通常社員総会を記念し記念講演「台湾当局が管理する森林が100%FSC認証取得を達成-アジアにおける持続可能な森林経営のリーダーシップ事例-」を開催し、会場とオンライン合わせて94名の皆様ご参加いただきました。

登壇者として、FSCアジア太平洋 支局長のシンディ・チェンとFSC中華台北 市場開発マネージャー ロニー・ホアンが来日し、オンラインにて台湾の林業及自然保育署 署長 林華慶氏、保育企劃組資源調科 科長 吳俊奇氏にもご登壇いただき、台湾当局が管理する森林における100%FSC認証取得という記念すべき事例についてご紹介いたしました。

導入

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初めに導入として、FSCアジア太平洋支局長のシンディ・チェンより、FSCの組織概要について説明いたしました。また、1997年にマレーシアで初のFM認証が取得されて依頼、2024年の台湾当局が管理する森林における100%FSC認証取得に至るまでの、アジア太平洋地域におけるFSCのこれまでの発展と現状について説明し、「台湾での事例が世界中の人々に持続可能な森林管理に向けた同様の責任感を促すきっかけになることを願っている。」とコメントいたしました。

開会挨拶

続いて、台湾の林業及自然保育署 署長 林華慶氏より、開会のご挨拶として、台湾が台湾当局が管理する森林全体でFSC認証を取得した意義と背景、現状の成果について以下のようにお話しいただきました。

林華慶氏:台湾では、1990年以降に天然林の伐採が禁止されて以降、環境意識の高まりにより人工林の活用にも消極的になっていましたが、熱帯林保全のためにも輸入木材に頼らず木材自給率を上げる必要があるという考えから、2016年より当時0.5%未満であった木材自給率の向上を政策目標に掲げ、林業の再興を推進してきました。森林伐採に懸念を持つ環境団体や社会の理解を得るために、国際的に信頼性のあるFSC認証を取得する判断に至りました。

また、元々先住民族の居住地であった台湾当局が管理する森林は、日本統治時代の政策により、森林の管理と利用が中央集権化され、先住民族の森林利用権が制限されてきた経緯があり、林業及自然保育署と先住民族は緊張関係にありました。地域コミュニティや先住民族との関係構築を重視するFSC認証を取得することによって、今では先住民族の森林資源利用の権利を回復し、持続可能な方法で森林を利用してもらうことで、山村地域の経済活性化にもつながっています。さらに、台湾では私有林のFSC認証取得も奨励しており、申請者には80%の補助金を給付しています。今後もFSCや国際的なパートナーと連携し、気候変動への対応と森林の持続可能な経営を共に推進していきたいと思います。

台湾におけるFSC認証の概要

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次に、FSC中華台北 市場開発マネージャー ロニー・ホアンより、台湾の森林の概要や、現状と今後の課題、先住民族との連携事例について以下の内容をご紹介させていただきました。

ロニーホアン:台湾は島国でありながら70%以上を森林が占めており、そのほとんどが中央山脈に広がる台湾当局が管理する森林です。多様な気候帯と標高差により非常に高い生物多様性を有し、多くの固有種や先住民族の文化とも深く関わっています。近年では、環境や持続可能性に対する社会の関心の高まり、また当局の政策的後押しにより、森林管理のFM認証および加工・流通過程のCOC認証の取得が進んでいます。

2024年時点で、台湾当局が管理する森林全域がFSC認証を取得し、FM認証面積は160万ヘクタールに達しています。これにより、森林の約70%が認証対象となりました。またCOC認証取得者も約645件に達し、紙・印刷業だけでなく家具や建材などの分野への広がりも見られます。さらに、IT企業によるプロモーションライセンスの取得は、FSCが新たな産業にも浸透しつつあることを示しています。

FSC認証を通じて、先住民族との協働も進み、彼らの伝統的知識と技術を活かした森林管理が実現しています。たとえば南庄地域では、先住民族がFSCの原則に基づき自ら森林管理や間伐に関与し、森の副産物(精油、はちみつ、コーヒーなど)を地域産品として流通させることで、地域経済の活性化にもつながっています。

現状は国産材の価格が高いことに加え、供給インフラや人手不足が課題となっており、2027年までに台湾産木材利用率を5%まで向上することを目標に、台湾当局および関係機関とFSCが協力しながら、持続可能な森林経営と循環型経済の実現を目指しています。

台湾当局が管理する森林におけるFSC認証取得の詳細

最後に、台湾の林業及自然保育署 保育企劃組資源調科 科長 吳俊奇氏より、実際に認証取得に携わった経験に基づく、取り組みの詳細を以下のようにご紹介いただきました。

吳俊奇氏:台湾ではすでに一部の私有林がFSC認証を取得していましたが、台湾当局が管理する森林は大規模かつ複雑な経営体系を持つため、短期的には実現できないと判断し、2016年より4段階(能力開発、職員研修、業務手順と書式整備、試行と改善)からなる中長期的な認証取得戦略を立てました。

推進にあたっては、林業関係者の旧来の意識の変革が最大の課題であり、情報公開や先住民族文化への尊重など、FSCが掲げる新たな価値観に対して抵抗も見られました。これに対し、上層部の強いリーダーシップのもと、カナダから審査員を招いての研修や、全職員へのFSC認証規格の理解促進、手順書や報告書式の整備、模擬監査の実施を重ね、段階的に職員の意識と業務の両面を整備していきました。

初めは部分的な認証から始めましたが、嘉義支店を皮切りに全域で認証取得を達成。認証取得後は、先住民族との共管体制の構築や、文化的・伝統的権利の尊重、関係者への積極的な意見聴取、また森林管理の標準化・制度化を通じて、職員間の情報共有や業務の継承も容易になりました。

さらに、伐採作業についても従来の財産保護中心から、環境・社会影響や安全性への配慮を重視する体制へと大きく転換されました。今後はFSCをはじめ国際的なパートナーとの連携をさらに深め、アジア太平洋地域全体で持続可能な森林経営と認証材の普及を推進していきたいと思います。

開催概要

日時:2025年5月30日(金)15:00~17:00

会場:総会会場およびオンライン(Zoom)配信

参加費:無料

主催:FSCジャパン

 

参加者からは、台湾からの関係者から直接お話を伺えたことが良かったとのご感想をいただきました。FSCジャパンでは、今後も日本国内や海外におけるFSC認証の先進事例について情報発信してまいります。

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