化学合成農薬の目標
FSC農薬指針の短期的な目標は、使用されている化学合成農薬の全体的な使用量と使用回数を減らし、最も危険な化学合成農薬の使用を停止することです。また人間の健康及び環境に関連するリスクを最小限に抑えるための最良の方法を普及させることも含まれます。
指針の長期的な目標は、FSC認証林における化学合成農薬の使用を停止することです。
本指針は、環境価値と人間の健康に与えられた被害を回復及び補償すること、 そして農薬使用と指針自体の影響をモニタリングすることを重要視しています。
化学合成農薬の使用
本指針では、総合的な病虫獣害対策によって、最終手段として化学合成農薬の使用を認める必要性が示された場合に、様々なレベルで環境・社会リスクアセスメントを実施し、リスクの性質と度合い、そしてリスク回避・低減措置、モ ニタリング要件を特定するという要求事項を定めています。
農薬指針と非常に危険な農薬(HHP)一覧
農薬指針(FSC-POL-30-001 V3-0)の日本語参考訳と非常に危険な農薬(HHP)一覧(英語のみ)は以下及びこちらのページからダウンロードいただけます。
非常に危険な農薬(HHP)一覧(FSC-POL-30-001a)は2024年4月に改訂版が発表されました。改訂版、FSC-POL-30-001a V1-1は2024年7月1日から有効となり、移行期間は2026年1月1日までです。移行期間終了までに、新しい改訂リストに基づいた運用がされていることが確認されなければなりません。
農薬指針のポイント
- 非常に危険な農薬(HHP)を「使用禁止」「高度使用制限」「使用制限」の3グループに分けた。これらは非常に危険な農薬(HHP)一覧に掲載されている。
- 「使用禁止HHP」は、緊急事態と政府による使用命令の場合を除いて、原則使用禁止となる。
- 「高度使用制限HHP」と「使用制限HHP」は、認証取得者が環境・社会リスクアセスメント(指針内にテンプレート有)を実施し、関連リスクを特定及び評価し、リスク回避・低減措置の実施によってこれらのリスクを抑制している場合に限り使用できるようになった。可能な限り、HHP一覧未記載農薬、使用制限農薬、高度使用制限農薬の順番で優先順位を付けることが求められる。
- 認証取得者がHHP使用のための条件を満たしているかは、認証機関が通常の監査の際に確認をする。
- HHPリストに掲載されていない農薬の使用についても、最低限の社会環境リスクアセスメントを実施して、悪影響がないことを確認するか、または悪影響を回避・軽減した上で使用する必要がある。
農薬指針が日本のFM認証取得者に与える影響は?
現在日本の林業で使用されている農薬のうち、主なものについて改定HHP一覧ではどのグループに分類されているのかを抜き出しました。
上記の通り、禁止HHPは原則使用できなくなります。高度制限HHP、制限HHPは環境・社会リスクアセスメントを実施してからでないと使用できません。非常に危険な農薬(HHP)一覧に記載されていないものであっても、化学合成農薬を使用する際には最低、環境・社会リスクアセスメントの実施と現場でのリスク回避・低減が求められます。
殺鼠剤
リン化亜鉛(Zinc phosphide):FSC高度制限HHP
シカ等の忌避剤
コニファーなどのジラム系(ziram):FSC高度制限HHP
ヤシマレント、ヤシマアンレスなどのチラム系(チウラム系)(Thiram):FSC高度制限HHP
ツリーセーブなどのイソプロチオラン系(Isoprothiolane):HHP一覧未掲載
殺虫剤
エコワン3 フロアブルなどのチアクロプリド系(Thiacloprid):FSC禁止HHP
マウントT7.5B油剤などのフェンチオン系(Fenthion):FSC禁止HHP
スミチオンなどのフェニトロチオン系(Fenitrothion):FSC高度制限HHP
キルパーなどのカーバムナトリウム塩系(metam sodium):FSC制限HHP(ただし、キルパーは土壌中で速やかに分解し、主にメチルイソチオシアネ-ト(MITC)となる。MITCはFSC禁止農薬である)
グリーンガードなどの酒石酸モランテル系(Morantel tartrate):HHP一覧未掲載
センチュリーなどの塩酸レバミゾール系(Levamisol hydrochloride):HHP一覧未掲載
NCSなどのカーバム系 (Metam):非HHP一覧記載農薬(ただし、NCSは土壌中で速やかに分解し、主にメチルイソチオシアネ-ト(MITC)となる。MITCはFSC禁止農薬である)
ウッドキングDASHなどのトリホリン系(Triforine):HHP一覧未掲載
除草剤
ラウンドアップなどのグリホサート系(Glyphosate):FSC制限HHP
ケイピンエースなどのイマザピル系(Imazapyr):HHP一覧未掲載
ザイトロンなどのトリクロピル系(Triclopyr):HHP一覧未掲載
クロレートSなどの塩素酸ナトリウム系(Sodium chlorate):HHP一覧未掲載
苗木業者によってよく使用される農薬とそのHHP区分
農薬指針では外部の苗木業者から苗木を購入する際や、管理区画内に位置する第三者の加工場がある場合に以下が求められます:
- これらの業者にFSC禁止農薬の一覧を通知し、苗木生産工程または管理区画にに持ち込まれる資材に対してこれらの使用を避けることを奨励すること。
- これらの業者が使用している農薬のうちFSC禁止農薬に該当するもののリストを要請すること。
使用を避けることを奨励するのは「禁止農薬」だけでよいです。高度制限、制限農薬について使用を避けることを奨励する必要はありません。また奨励した結果、実際に使用を停止しているかどうかについては、審査確認対象とはなりません。
左の一覧は、国内の苗木業者がよく使用する農薬と、そのHHP区分(禁止、高度制限、制限、HHPリスト未記載)を示したものです。苗木業者と話をする際にお役立てください。
使用している農薬が「非常に危険な農薬(HHP)一覧」に含まれているか、どのように確認できる?
特定の農薬が「非常に危険な農薬(HHP)一覧」に含まれるかどうかを調べるためには、農薬の有効成分を調べる必要があります。
農薬の有効成分は、多くの場合「農薬名+安全データシート」とウェブ検索をすることで、メーカーが開示している安全データシート(SDS)で調べることが出来ます。
その他にもメーカーのウェブサイトや農林水産省の「農薬登録情報提供システム」で対象農薬の有効成分を調べることもできます。
「非常に危険な農薬(HHP)一覧」の有効成分は英語名で書かれており、日本語の有効成分名から調べることが容易でないため、国際的に化学物質の特定のために使用されるCAS番号(CAS number)で確認をする方が確実です。
例えば安全データシート(SDS)であれば「組成及び成分情報」の欄にCAS番号が記載されているので、これを選択・コピーして、「非常に危険な農薬(HHP)一覧」のPDFファイル上で検索をすることで、「非常に危険な農薬(HHP)一覧」に掲載されている有効成分であるか確認できます。
有効成分のCAS番号が分からない場合は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で化学物質名からCAS番号を調べられるものもあります。
対象の有効成分が「非常に危険な農薬(HHP)一覧」のP7~P11のFSC PROHIBITED LISTに含まれる場合はFSC禁止農薬です。
対象の有効成分が「非常に危険な農薬(HHP)一覧」のP12~P18のFSC HIGHLY RESTRICTED LISTに含まれる場合は、高度制限農薬です。
対象の有効成分が「非常に危険な農薬(HHP)一覧」のP19~P31のFSC RESTRICTED LISTに含まれる場合は、制限農薬です。
代替手法(品)データベース
FSC農薬指針は、認証取得者が段階的に非常に危険な農薬の使用を停止することを目指しています。このため、FSCではこれまで森林管理者によって試されてきた非常に危険な農薬を代替するための戦略、方法、製品に関するデータベースを用意しました。