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 今回は、長年バイオマス問題を研究し、バイオマスをめぐる議論を牽引するNPOバイオマス産業ネットワーク理事の泊みゆき氏を迎え、「バイオマス発電、輸入バイオマスをめぐる変化と木材市場への影響 ― トレーサビリティGHG排出基準、情報公開等 ―」と題し、バイオマス発電をめぐる現状や課題、またFIT制度の今後の方向性やその影響についてご講演いただきました。 

 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)で促進されてきたバイオマス発電。国内林業活性化にも寄与する気候変動対策として期待されながら、バイオマス燃料の大量輸入により拡大してきました。しかし、FITにより大量に輸入されてきたPKSと木質ペレットは、輸送にかかるエネルギーや調達先における森林破壊で排出される炭素を考えるとカーボンニュートラルとは程遠い実態が明らかになっています。

 講演では、各国の供給源における問題も紹介されました。米国では大手ペレット製造企業が大気汚染や騒音問題を繰り返し引き起こしグリーンウォッシングの典型として国際的な批判を受け、カナダでは天然の老齢林の破壊・劣化を引き起こしていながら、生産されたペレットが森林認証(SFI/PEFC)認証として日本に入ってきているということです。ベトナムではFSC認証偽装問題で大手木質ペレット供給企業がFSCよりブロックされ(その後プロセスを経てブロック解除)、インドネシアでも政府がエネルギー用の大規模植林を計画し、生物多様性に富む天然林などの破壊が危惧されています。さらに国内外のバイオマス発電所では事故が多発し、安全性への懸念も高まっています。こうした問題に加え、これらの輸入バイオマスのライフサイクルGHG値はそもそも国際基準に見合うものではないため、早期のフェードアウトが必要だとの考えが示されました。

 バイオマス発電の気候変動対策としての有効性への批判を受け、木質バイオマスについてライフサイクルGHG基準を下回る算定根拠の情報公開が進められています。これにより輸入材から国産材に燃料用需要が一部シフトし、国産木材の合板用や製紙用など他用途との競合が更に激しくなりそうです。

 最後に、FIT制度の期限が見えてきている中で、FITなしのバイオマス発電は事業として継続が困難なことから、FIT終了を見据えたバイオマスの次の需要として、熱利用の可能性が提案されました。そもそもバイオマスを発電のみに使用するのは非効率であり、熱利用の方が効率が高く、太陽光や風力といった他の再生可能エネルギーと比較して需要に合わせた供給が可能なため、今後は特に他の再エネ熱では供給が難しい産業用熱利用を推進すべきという方向性が示されて締めくくられました。

 質疑応答でも活発な意見交換が行われ、本勉強会には155名の方にご参加いただき、大変盛況のうちに終了いたしました。

資料は以下のリンクからダウンロードいただけます。

責任ある森林管理のための勉強会17回250421_バイオマス_泊氏資料.pdf
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