公益社団法人兵庫みどり公社

平成17年には公社としては国内初となるFSC認証を取得

公益社団法人兵庫みどり公社
藤島斉
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期限の定まった契約を結び、山主に代わって収益を出すための森林経営行う分収造林。そんな近い将来には山主に返すことが前提の山で、FSC認証を取得している森が兵庫県に存在する。県の林政を長年サポートし、経済と環境という二つの大きな柱を基本に森林管理を実践する公益社団法人兵庫みどり公社を訪ね、その取り組みをうかがった。

県の林政の相棒役

日本海から瀬戸内海まで、陸続きの県土をもつ兵庫県。全国平均と同じ67%という森林率をもつ同県では、中国地方の脊梁を構成する急峻な中国山地周辺に人工林の多くが集中している。この人工林の一割強にあたる25000haの森林を管理する県下最大の林業経営体、公益社団法人兵庫みどり公社。分収造林事業を中心とした林業経営を展開する一方、今では一般的になった〝森林の公益的機能〟の増進という災害に強い山づくりにいち早く取り組み、平成17年には公社としては国内初となるFSC認証を取得している。

社の発足は戦後の拡大造林がピークを迎えた昭和37年、社団法人兵庫県造林公社としてスタートした。その後、昭和47年には社名を「(社)兵庫県造林緑化公社」に変更。「緑化」の二文字が示すとおり、県や市など、公共施設の緑化事業を受託するようになる。時代が平成に入り、平成6年には「(社)兵庫県森と緑の公社」に社名を変更するが、実はこの年、全国植樹祭が兵庫県で開催され、兵庫県の林政にとって大きな転換期になる。

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「それまでは経済活動重視だった兵庫県の林政に、公益的な機能の維持増進という柱が新たに加わりました。県として『経済』と『公益的機能』の両面で林政を進めることになり、その動きに公社も対応。社名も変更したようです」と、当時の状況を話す森林緑化部長の菅原健氏。分収造林を中心としたそれまでの事業に加え、公益的機能を維持するための里山造成事業なども新たに県から委託を受けるようになっていったという。

その後、平成15年には、同じ兵庫県内で農業関係の担い手の育成を行ってきた「財団法人ひょうご農村活性化公社」と合併し、社名を「(社)兵庫みどり公社」に変更。さらにその10年後には公益社団法人となって現在に至る。このように社名の遍歴からも分かるとおり、発足以来、同公社では県との密接な関係を保ちながら時代の要望に応え、県が目指す森づくりを請け負ってきた。

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県民の森への理解

兵庫県が目指す、森林の経済性と公益性の両立。それはどこか、「環境・社会・経済面での持続可能な森林管理」というFSCの基本的な理念に通じるものを感じるが、注目したいのは兵庫県が平成6年の時点で、森林の多面的な機能の維持と増進に林政の舵を切った点だ。
先にも少し触れたように、兵庫県は県土の約7割が中山間地であるのに対し、人口の8割は神戸市近郊の都市部に集中している。森林は人口の少ない県の中北部に集中し、人口の多い瀬戸内側は工業地帯と近郊農業が盛んな地域で、県民と林業との接点は薄い。そうした状況の中にあって、国土保全や水源涵養、生物多様性などといった数値化しにくい森林の公益性について都市部に住む人たちに理解してもらうのは、なかなか容易なことではなかっただろう。それでも、兵庫県では20年以上にわたって森林の多面的な機能を維持・増進する事業を続けており、そればかりか平成18年には「県民緑税」という新たな税を創設。税収を災害に強い森づくりのために活用している。

こうした税金に対する理解が県民の中にある背景として、兵庫県ではおよそ5年に一度の間隔で台風や土砂災害などの大きな災害に見舞われるという経緯があり、県民一人ひとりが災害と森がどう関わっているかを肌で感じているのではないか、と菅原部長は考えている。実際、県民緑税が創設される2年前には台風の影響で2000haもの森林が風倒木被害に見舞われ、その強烈な印象が新たな税制を設ける契機となったそうだ。「実は、森林というものが公益面でも貢献することを説明するツールとして、FSCが役立つことがあります」と話す菅原部長。森林の持つ多面的な機能は、適切な森林管理があってこそ最大限に発揮されるものである。その適切な管理をこれまでのような個人の経験や勘にまかせるのではなく、10の原則と70の基準、さらにその下部に設けられた200もの細かい指標に沿って行うFSCには、これまでにはない説得力があるというわけだ。しかもそれが、国際認証という世界規模の基準として太鼓判を押されているなら、説得力はなおさら高くなるだろう。

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みどり公社が管理する森

あらためて兵庫県の森林分布をみると、都市部に近い地域にはいわゆる里山が多いことがわかる。集落のすぐ裏には広葉樹主体の山が迫り、住民の高齢化が進んでいるため手入れがなかなか行き届かず巨木化が進んでいる。そのため公社には、民家の屋根に覆いかぶさった木を何とかして欲しいという要望が多いそうだ。
一方、みどり公社が管理する経済林の多くは奥山にある。そのほとんどがFSCの認証林で、大部分を高齢級のスギとヒノキが占める。中には55年生のヒノキの林班もあり、いつ伐採してもいい時期を迎えているのだが、木材価格との折り合いがつかないため現在は伐採を控えている。

公社設立以来、拡大造林とその保育が主体だった作業は、現在、間伐と搬出作業を行うための道の開設が主な作業になっている。搬出間伐地の路網密度は1haあたり100mほどで、間伐して材を出すエリアを集中的に整備している。また、これまでは間伐した材を林内に残置してきたが、近年は極力木材資源を活用しながら収益を得る取り組みを進め、分収契約している山主に配分しているそうだ。

年間出荷量は約19000m3、材は全てFSC認証材として市場に出荷。近年はバイオマス発電用のチップ材の需要も多く、年間出荷量のうち約4割がチップとして利用されバイオマス発電に利用されている。兵庫県内ではこの2~3年で3基のバイオマス発電施設が完成し、みどり公社からの原木の供給が追いつかない状況になりつつあるそうだが、その結果、今まで使われていなかった材や、買われることのなかった材が買われるようになる現象が起きているという。木材資源の有効活用という意味ではよい流れではあるが、一方では海外からの輸入材を利用してようやくバイオマス発電を稼働させるという〝ねじれ〟現象が全国的に起きており、兵庫県でも同様の傾向にあるという。

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変化する山の様子

取材の途中、兵庫県南部と淡路島全域を管理する西播磨事務所のスタッフの案内で作業道を歩いてみた。歩きだしてほどなく、確かに今すぐにでも出荷できそうなスギの林が目にとまる。間伐材を運搬するために積極的に作業道をつけているという説明どおり、林内は今すぐにでも重機が入って作業ができるような環境が整えられている。時折、作業道を挟んで他者が管理する森と接する場所を見かけたが、みどり公社が管理する森と比べるとだいぶ暗い森であることが一目で分かる。林床の植生にも差が見られ、みどり公社の管理する森の方が圧倒的に緑は多かった。

一方、若齢級の森林では下層植生が多すぎる印象さえ受けるが、実はシカの食害から植樹した木を守るためにあえて刈る量を抑えているのだという。説明によれば、近年、兵庫県でもシカが爆発的に増えており、林業の現場はシカの食害の対応に追われているという。林道にはシカが嫌うタケニグサだけが我もの顔で成長し、林内もミツマタなどやはりシカが嫌うような単一の植物林が現れ始め、多様性のある森をつくるのが難しくなっているそうだ。
「シカが好んで食べる下草まできれいに刈りすぎると、植樹した苗木が目立って食べられる確率が高くなります。下草に囲まれて植樹した苗木の成長が遅れるというリスクはありますが、苗木が食べられてしまっては意味がないので、下草刈りを調整しながら対策しています」。同事務所の谷口課長補佐は、「お金をかけて下草刈りをしながらシカに苗木まで食べられていたのでは目も当てられません」と、近年の植林の難しさを語ってくれた。

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マーケット構築への期待

先述の県民緑税からも読み取れるように、兵庫県では森林の公的機能に対する県民の理解が進んでいると言えるだろう。一方、県民緑税と同じような性格を持つFSCに関しては認知度も低く、COC認証を持つ事業者が繋がりながら広がるようなマーケットも見当たらない。マーケットがあれば消費者の目にも届くことになるのだが、県内ではCOC認証を取得している業者は少数にとどまり、みどり公社でも市場から先のFSC材の行方はほとんど把握していないそうだ。

FSCに限らず日本の木材業界全般に言えることだが、材を供給することに加えてマーケットをどう作るかを考えていかないと、生産側である川上と消費側である川下の両者がうまく循環せず、林業は停滞からなかなか脱出できない。例えば静岡県浜松市の天竜林材業振興協議会の場合には、浜松市内で住宅を建てる際にFSC認証材を使うと補助を受けられるという制度があり、これが動機付けとなって木材関連企業の間で一気にCOC認証の数が増加。FSCで繋がるマーケットが構築され、川上と川下の関係がうまく循環した。
地域によってさまざまな課題があるので、同じことをすればうまく行くという単純な話でもないだろうが、兵庫県ではすでに、県民緑税によって都市部と山間部の循環が機能している。こうした背景があることを踏まえると、県民緑税と同じような性格を持つFSCは、兵庫県では意外としっくりとハマるのではないだろうかと思えてくる。
もちろん、補助金制度云々という話になれば県の管轄になってくるが、既にみどり公社では十年以上に渡ってFSCの基準で森林を管理してきている。県の林政がFSCの普及に舵を切っても、これまでのみどり公社のように、十分な実績と技量で林政をサポートすることだろう。グローバル化が進む現代、林業の世界でも国際化が加速度的に進んでいくことが予想されるが、兵庫県には林政にいち早く森林の公益性を取り入れた県として、今後も全国の自治体を引っ張っていってもらいたい。神戸という大きな都市を持つ県ということもあり、全国への影響力ということを考えるとついあれこれと期待を寄せてしまうが、兵庫県とみどり公社の新たな活躍をこの場で紹介できる日を楽しみにしている。

※この記事は、2016年9月9日に行った取材をもとに再構成したものです。記事内の数値や役職などは取材当時のものをそのまま掲載しております。

文:藤島斉

基本情報

【名称】
公益社団法人兵庫みどり公社

【所在地】
〒650-0011兵庫県神戸市中央区下山手通5丁目7‐18(兵庫県下山手分室)

【主な樹種】
スギ、ヒノキ

【取扱製品】
原木

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