日南町森林組合

たたらの技術を育んだ森の新たな選択

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藤島斉

時代に合わせた森林利用の遍歴

日本一の鋼として多くの名刀に使われてきた〝幻の鋼〟「印賀鋼(いんがこう)」。その鋼を産出していた鳥取県南部のまち日南町には、かつて銑鉄の製造を行っていた炉の跡や、たたら地蔵が点在。公園やキャンプ場の草むらでは、砂鉄から鉄を抽出するときに出る不純物の塊「カナクソ」が無造作に転がっていることも珍しくない。

そんな、たたらの製鉄技術に不可欠なのが、燃料となる大量の木材。日南町の約90%を覆う森林は、映画『もののけ姫』の時代から燃料となる木材を供給し、地域の人々は遠い昔から森と深く関わって生きてきた。

たたら用の製炭林として長い間利用されてきた日南町の森林だったが、たたらの衰退とともにその役割は家庭用の製炭林へと譲られていく。さらに戦後は、燃料改革によって炭の需要が低下し、代わりに国内では復興建築材としての需要が増加。成長が早く当時経済的にも価値の高いスギ、ヒノキ、マツを中心とした人工造林が推進されるなか、日南町もこれに追従する。

製炭の森から用材生産の森へと姿を変えていった日南町の森だったが、昭和39年の木材輸入全面自由化や、石油加工製品などの木材に代わる素材の普及などの要因をきっかけに、国産材の需要は全国的に大きく減少。いまなお続く国内林業の低迷期が始まる。

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日南町森林組合

新たな森への動き

こうした中、国では、地域の活力を再生するための創意工夫を凝らした自主的かつ自立的な取組を支援する制度「地域再生計画」を制定する。地域再生のカギは町の90%を占める森林の経済的機能が握っていると考えた日南町では日南町森林組合などと協力し「地球環境にやさしい新森林業の形成」をテーマにした計画を提出。平成18年に国から認定を受けることとなった。

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「もともと日南町では、森林の保育、伐採、流通、加工、建築にいたるまで、山元から木材加工までの木材流通経路が整っていました。森林組合を中心にこの体制を強化していこうというのがこの計画の概要です」と話す、日南町森林組合の藤原孝志さん。計画には森林資源のデータベース化や、森林施業計画の策定、木質バイオマス燃料の製造などの項目が並び、高付加価値化商品の開発という観点から「森林管理認証」「CoC認証」という項目も盛り込まれている。

「森林認証については、日南町産材の木材に認証材という付加価値をつけるだけではなく、町産材のイメージアップやブランド化につながる効果を期待したようです」、と当時の様子を話す藤原さん。単に原木を売るだけでなく町内で加工した木製品を、海外へ輸出することを視野に入れていたことからFSCの認証取得に取り組んだと、数ある認証制度の中からFSCの森林認証を選んだ理由について話す。

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認証を活用する町のデザイン

FSCの認証取得については平成18年から取り組み、平成22年に鳥取県では初となる(国内で31件目)FM認証を取得。初年度は林業会社2社と町有林の3者でFM認証を取得したが、その後、個人の山林所有者に声をかけて認証林を拡大していった。組合員は現在1500名を超え、当初2000haから始まった認証林は組合員各位の理解を得ながら平成25年には1万9500haに増加した。

他の国内の認証取得者と同様、認証取得の前後では作業時の安全に対する意識や、環境に対する意識が高くなるという変化が見られたそうが、藤原さんは「町内の山のデザインをしていく中で、FSCという基準で組合の森林管理が手本となれば」と、周辺地域への波及効果を期待する。

また、日南町では森林組合から産出される認証材を受け入れる体制が整っている点にも注目したい。先に紹介した「地域再生計画」(地球環境にやさしい新森林業の形成)が認定されると、日南町では町内の森林所有者が中心となって木材加工会社(株)オロチを設立(平成18年)。後にCOC認証を取得する同社では、新たに開発されたLVL(単板積層材)製造装置によって加工が難しい国産スギの有効利用を実現。これまでは産出した木のほとんどが原木のまま町外へ流出していたが、町内で産出した木を町内で加工するという新たな経済活動の流れが確立された。

平成19年には新たな木材団地「日野川の森林(もり)木材団地」が完成。原木市場を経営する(株)米子木材市場生山支店、チップの生産・販売を行う山陰丸和林業(株)生山事業所が移転し、翌年には(株)オロチの工場が完成。その後も日南町の木材加工関係施設が集結し、一大木材団地が形成されている。

さらに平成20年には町内の素材生産業者23社によって日南町木材生産事業協同組合が設立され、山林から生産される素材の供給先が確保される。こうした林業を中心とした町のデザインにより、これまで年間生産量の1/5しか市場に出せなかった町の木材資源を、限りなく100%に近い割合まで活用できる準備が整った。

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たたらの森の今

FSC認証を取得してから5年、取材で訪れた山中では、森林施業計画に沿った作業が行われていた。案内された山は比較的勾配の穏やかな9齢級(41~45年生)のスギ林。中国山地のほぼ中央に位置する日南町は標高280m~1260m山中にあり、林内では冬季の積雪が1m、場所によっては2m近く積もるところもあり、雪害木の姿も少なくない。この日も5分も歩かないうちに、奇妙な形に曲がりくねった雪害木が目を惹いた。植えられているスギの木は材に粘りのある品種のスギで、通常であれば雪の重みで折れてしまう木が弧を描くように曲がったまま周囲の木にもたれかかっていた。

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しばらくすると、玉切りにされた丸太を積んだフォワーダと行き違った。この山では現在、間伐材の搬出の最中で、作業員5名から成るグループで5~6台の機械を駆使しながら作業を行っている。先行して道付け作業が行われハーベスタが集材出来る範囲300m/ha以上の開設を行い、ハーベスタで伐採出来る範囲の伐採・玉切り・枝払いを行いフォワーダで搬出、トラックで木材団地へ搬出を行っている。作業の核となるのは10mのロングアームを付けたハーベスタ。伐倒しながら玉切りをすると、その切り揃えられた木材は次々と木材団地に搬出されていく。

作業の手順は10年ほどの時間を費やして研究されたもので、設立準備中だった(株)オロチへの木材供給をどのように確保するかということからスタートし、木材の生産性と作業効率を最優先に考えられている。 

「道をつけすぎという批判もありますが、少人数での作業効率を考えるとこの山ではこのやり方がベストなんです」と話すのは山を案内してくれた日南町森林組合販売リーダーの松浦昌司さん。伐倒、集材、運搬など、作業員全員が常に作業ができるように作業手順が考えられているという。

「この人数で作業するには、1日あたり50m3は丸太を生産しないと採算性が合いません」と話す松浦さんの言葉通り、作業の核となるハーベスタの作業ペースは、確実に採算の最低ラインをクリアするペースで稼働している。「今どきの林業では、自分たちが楽な仕事をすることが重要です。楽な仕事、つまり機械化することで生産性も上がり、機械中心の作業になるので怪我をする場面も少なくなって安全性も上がりました」。

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一時期は、危険の多い仕事だからと敬遠され、担い手不足で将来が危惧されていた林業界だが、この日訪れた現場では20代後半~30代前半の3人の作業員が、ベテランの作業員とともにいきいきと作業をしていた。低迷を続ける林業という使い古された言葉を尻目に、FSCの認証林を中心に添え、「木」をキーワードに地域経済の再構築と活性化を図る日南町の挑戦。そこには、たたらの時代から培ってきた〝森とともに生きる〟という知恵が大いに活かされているのだろう。林業に限らず、今の日本にとって見習うべき知恵は少なくはない。


文:藤島斉

基本情報

認証の詳細については名称をクリックいただくとご覧になれます。

【名称】
日南町森林組合

【所在地】
〒689-5211 鳥取県日野郡日南町生山423-2

【主な樹種】
スギ、ヒノキ

【問い合せ】

  • 電話番号:0859-82-0130 
  • メールアドレス:nichimorikumi@sea.chukai.ne.jp
  • ウェブサイト

関連CoC認証取得者

【名称】
株式会社オロチ

【取扱製品】
木工品、建築用材、LVL

【問い合せ】
ウェブサイト
______________________________

【名称】
株式会社ウッドカンパニーニチナン

【取扱製品】
建材用材(プレカット可)

【問い合せ】
日南町森林組合にお問い合わせください。