山をもつ者の責任としてFSC認証を取得した企業がある。日本土地山林株式会社、主力となる山は日本海からの季節風の影響を強く受ける兵庫県のほぼ中央に位置し、日本海と瀬戸内海に流れ出る分水嶺にもなっている。伝統的には燃料や炭焼きを中心に行っていた地域であり、林業が始まったのは明治も終盤になってからのこと。明治33年(1900年)、「樹喜王」の名をもつ奈良吉野の林業家土倉庄三郎氏の指導を受けてこの地での林業が始まった。
「当社の山は、吉野の林業に近い山ですね」と話すのは、同社山林事業部の枡岡望氏。山に行けば大好きな野生動物にたちに会えるだろうと林学科に進み、学生時代は“マイチェーンソー”を持って山に入り浸っていたという経歴の持ち主だ。FSC認証取得に際しては事前審査から本審査までほとんどすべての作業を一人で行ったというが、大変な苦労があったことだろう。
「現在の社長がとても環境意識の高い方なので、FSCを取得すると決まれば後はトップダウン的に進めるだけでした」と、枡岡氏。森林に対する自分の考えとFSCの考えは大きくかけ離れてはおらず、作業は比較的スムーズに進んだという。
自らに課した社会的責任
今の時代、環境保護をないがしろにしていたのでは会社は成り立たない。そのことを社長以下、社員一同が共有しているという枡岡氏。環境に対する感覚が敏感な同社が選んだのがFSC認証だった。その経緯について枡岡氏は、「FSCは環境面に対する基準が他の認証よりも厳しかったから」と、選択した理由を語る。「当社では、兵庫県のほぼ中央に約1900haという広大な面積の山林を持っています。それはつまり、会社の方針一つでその流域の環境がゴロッと変ってしまうということでもあり、とても危険で怖いことだと思うのです」。
創業以来、植林と伐採を繰り返しながら林業経営を行ってきた同社だが、昭和30〜40年代には年間10,000m3を超える木材を出材する大規模経営を行っており、時には年間成長量を大きく上回る伐採を行っていた。そんな当時の様子を知る人からは、夕立が降ると川に濁流が流れ込んでいたという話しを聞くこともあり、枡岡氏は実体験を含め施業のもたらす影響を身近なものとして感じている。 また、広大な面積ゆえに、山林内には地元地域の人も知らないような景観もあり、希少な野生の動植物も少なくないそうだ。治山・治水と共に、こうしたかけがえのないものを次世代に引き継いでいくという二つの面から、FSC認証を前面に出して取り組んでいる。
木材生産の一時中断を経て
2009年、FSCのFM認証を取得した同社だが、実はその時、同社の山林では木材生産を一時的に中断していた。大規模経営時代の過伐の影響で山林の齢級構成が若い方に偏っていたためだ。12〜13年ほど中断していたが、FM認証取得の翌年には生産を再開。山林内に張り巡らされた総延長42km路網に沿って、道から約50メートルまでのエリアで搬出間伐を実施。700m3から再スタートした搬出間伐は、現在、5,000m3にまで増加している。
生産した丸太は関連会社でありFSCのCOC認証を取得している日林マテリアル株式会社によって柱や窓枠など住宅用建材として加工され、原木から加工・製造、流通まで、FSCのチェーンを途切れさせることなく一貫して維持できる体制を整えている。
「とにかくFSCのチェーンを繋いで流通させなくてはならないという強い思いがありました」と話す、日林マテリアルの土肥社長。日本土地山林がFM認証を取得したら、すぐにCOC認証を取得するこ公言していたというFSCの理解者だ。「せっかく取得した認証を、チェーンの上の方で切るわけにはいきません。同じ業種の企業にも情報を提供しながら、FSCをどんどん広げていきたい。そのためにしっかりとFSC製品を供給できるよう、今後も体制を整えていきたい」と、FSCに対する思いを語る。
三百年の森へ
日本土地山林が所有する山林の年間成長量は約9,000m3。その範囲内であれば、これまでのように皆伐施業は可能だが、枡岡氏は環境的にも経済的にも皆伐施業はするべきではないと考える。「林業はもともと環境に悪い商売です。この辺りも元々は落葉広葉樹の山で、それを一気に伐り倒してスギ・ヒノキを植えてきました。環境に与えるインパクトが大きい業種です。その罪滅ぼしではありませんが、今残っている広葉樹林の天然植生を極力残していくようなかたちで森林経営を進めていきたいと思っています」。
同社では今後、天然広葉樹林は保護林として樹種の転換は行わず、保護区などを設定しながら生物多様性確保をメインとした管理を進めるという。一方、林業経営に関しては、搬出間伐を繰り返しながら、木造文化財用補修用材としての利用が見込まれる300年伐期の超長伐期施業にシフトしていく予定。文化遺産を未来につなぐための「文化財創造プロジェクト」にも参加するなど積極的だ。
FSC認証が誕生した当初、認証を取得すれば木材が高く売れると噂されたことがあった。ごく一部にはそうした動きもあり、それを目的に認証取得に取り組んだ企業も少なからずあっただろう。一方、日本土地山林のように、環境保護という入り口からFSCに取り組む企業もある。木材価格云々という意味では目に見えたメリットはないが、FSCの基準に沿うことで次の世代、さらにその次の世代へと送ることのできる環境がある。そういう意味でのメリットがFSCには存在すると枡岡氏は言っていた。
世界では相変わらず違法伐採や破壊的な森林経営が行われている。日本には合法木材しか流通していないと思う人もいるかもしれないが、輸入木材製品ともなれば、日本は入りたい放題だという指摘もある。木材生産だけを行う企業と、木材生産と並行して環境保護も行う企業。どちらの木を選ぶか、最終的には買い手の判断に委ねられることになるが、FSC材という選択肢を用意してくれている同社に「ありがとう」と感謝の言葉をおくりたい。
文:藤島斉
基本情報
認証の詳細については名称をクリックいただくとご覧になれます。
【名称】
日本土地山林株式会社
【所在地】
〒679-3431 兵庫県朝来市新井777
【主な樹種】
スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツ
【問い合せ】
原木については下記連絡先まで、製品については株式会社日林マテリアルまでお問い合わせください。
- 電話番号:079-677-0536
- メールアドレス:nmasuoka@nihontochisanrin.co.jp
- ウェブサイト
関連CoC認証取得者
【名称】
株式会社日林マテリアル
【取扱製品】
丸太、合板、建築用材、窓枠、チップ
【問い合せ】
- 電話番号:079-677-0290
- メールアドレス:nkiyohara@nihontochisanrin.co.jp
- ウェブサイト