登米市産業経済部産業振興課

仙台市から北へ70km、岩手県との県境に位置し、古くから米どころとして知られる登米市。2005年に9つの町が合併して誕生したこの地域は、多くの渡り鳥が訪れる場所としても知られ、ラムサール条約指定登録を受けた伊豆沼・内沼をはじめとする水の豊かな環境が広がる。

 登米市産業経済部産業振興課
登米市産業経済部産業振興課

2016年12月、宮城県登米市の市有林がFSC-FM認証を取得した。地域の林業関係者らで構成する森林管理の協議会を設立し、林業と木材産業の再興を目指す動きの中での認証取得である。同じタイミングで登米市では、FSC-COC認証取得の費用の1/2を支援する「森林認証取得支援事業」を開始。その後もFSC認証を中心とした動きを加速させている。近年、取得した認証を返還する例もある中、協議会はFSC認証に何を見出したのか。話を伺うため登米町森林組合を訪ねた。

登米市森林管理協議会
藤島斉

森林資源を活用する既存のネットワークの存在

仙台市から北へ70km、岩手県との県境に位置し、古くから米どころとして知られる登米市。2005年に9つの町が合併して誕生したこの地域は、多くの渡り鳥が訪れる場所としても知られ、ラムサール条約指定登録を受けた伊豆沼・内沼をはじめとする水の豊かな環境が広がる。三つの森林組合(旧登米(とよま)町、旧東和町、旧津山町)を擁する林業と木材産業の地域でもあり、スギ、ヒノキ、アカマツなど民有林の人工林率は、県平均の54%、全国平均の46%を大きく上回り、70%と高い数字を誇る。
 早くから高性能林業機械を導入し、生産コストの低減や作業の安全確保に取り組む一方、宮城県内で唯一〝森林セラピー〟を体験できる森『登米ふれあいの森』を整備するなど、森林に新たな付加価値をつける取り組みにも積極的な地域である。

登米市森林管理協議会
藤島斉

こうした背景の中、2016年6月、登米市と市内三つの森林組合(登米町、東和町、津山町)、米川生産森林組合では、新たな木製品の開発と販売先の拡大を図るため「登米市森林管理協議会」を設立。その後わずか9ヶ月という短期間でFSC認証を取得する。林業の未来への危機感がスピード取得を実現させたのか、あるいはラムサール条約のように、国際的な取り決めに対してある種の〝慣れ〟があったのか、いずれにしても登米市森林管理協議会は登米市の市有林2,716haを対象にFM認証を取得した。

 20年前とは異なり、複数の森林認証制度が紹介されている昨今、登米市ではなぜ他の認証制度ではなくFSC認証を選んだのだろうか。実は、登米市の近隣には岩泉町、住田町、南三陸町といったFSC認証取得者が集まっており、以前から盛んに交流が行われていた。「南三陸町がFSC認証を取得するときに、広葉樹の活用方を巡ってCOC認証への参加を勧められていたのです」と話すのは、登米町森林組合木材利用開発課の會津浩幸さん。「木材加工から住宅の建設まで、FSC材で最終製品まで作れるのが当組合の特徴です。FSCへの参加をずっと誘われていながらも、決断に迷っていたとき、登米市が市有林で認証を取得するという話を聞き決断しました。背中を押された感じですね」。

登米市森林管理協議会
登米市産業経済部産業振興課

周辺地域の林業関係者との密なネットワークの存在、それがFSCの選択に繋がったということだが、FSCに取り組んでいく中でこうしたネットワークの存在は大きい。というのも、FSCに限らず、認証制度に対する誤解として「認証材は高い」「認証材は高く売れる」、そんな誤った認識がある。認証が価格に反映されたケースが過去になかったわけではないが、基本的に、認証を取得した途端に材の価格が上がったり、注文が入るということではない。認証は取り組みであり、取得することは林業に対する供給側の姿勢を示すものである。登米市では3つの森林組合に加え、木材共販所や製材所など、木材関連業者が20社操業している。この数字はこの地域に木製品の高い生産能力があることを意味する。地場の木でビジネスを進める際、最終製品の形で提案ができるというのは理想である。仮にそのサプライチェーンがまとめてCOC認証を取得すれば、それだけで認証製品を生産する力がアップして、その生産力を裏付けとして様々な営業展開が行える。認証の有無に関わらず、川上、川中、川下とサプライチェーンがつながらず、製品化まで辿り着かないというケースは近年珍しいことではない。その意味で、登米市周辺に構築されている林業関連事業体のネットワークは魅力と言えるのだ。

登米市森林管理協議会
藤島斉

使い勝手の良さをアップ

會津さんが所属する登米町森林組合は、登米市市有林のFSC認証において大きな役割を担っている。登米市の市有林がFSC-FM認証を取得した2カ月後、同森林組合は市内の木工所「(有)ウッディアベ工芸」とともにFSC-COC認証を取得。認証材の加工と製品化、FSCの普及に努めてきた。また、市有林のFM認証はその後グループ認証へと移行し、それに伴って拡大したFM認証材を一括管理するため、登米市森林協議会内に流通事務局が設けられる。その事務局を登米町森林組合が務めることとなったのだ。

 

登米市森林管理協議会
登米市森林管理協議会

流通を一元化することによるメリットは大きく、例えば、ある企業が認証材を使った製品開発をしたいと考えた場合、製品に適した樹種の選定、認証材の供給、COC認証取得済みの製材所などのサプライチェーンを一括してコーディネートを受けられる。窓口が一本化されたこの取り組みは、いわゆるエコ商品やノベルティを必要とする事業体にとって使い勝手が良く、認証材の需要拡大効果も期待できる取り組みと言えるだろう。

 現在、登米市森林管理協議会では2020年までに認証林面積を10,000haまで拡大する目標をかかげており、スギやアカマツなどの針葉樹を始め、コナラなどの広葉樹類も含め、森林から生産される全ての木材をFM認証木材として安定供給できるよう体制の強化を進めている。だがこうなると、当然のことながら扱う材の量も種類も多くなり、それに伴った業務体制の強化が必要になる。そこで登米町森林組合では、森林の基本情報を一元管理するシステム「森林GIS」を導入して合理化を図る一方、近年多くの場面で求められているトレーサビリティ情報を開示することで、木材の新たな価値基準を見出そうとしている。欧米の林業先進国では広く取り入れられている取り組みだが、日本国内ではまだほとんど導入例がない。その意味でも登米町森林組合の今後の動きが気になるところだ。

目指すは民間への普及

このように、認証取得後も着々とFSCを軸にした取り組みを進める登米市森林管理協議会。認証林も木材加工業者も年々増加の傾向にあるが、ユーザーの反応を見る限り、一般に広く浸透するまでにはまだ時間が必要だと會津さんは見ている。
 それでも、登米市一帯は認証を取得する前から林業の盛んなエリアである。旧津山町エリアでは年間6万m3の素材を消費する国産材の一大供給基地として今なお稼働しているし、市のほうでも平成20年には公共施設の木造化・木質化と市内産材の活用指針を策定。その後も、東日本大震災で被災した隣接する地域に対し、地域産材を活用した木造仮設住宅や災害公営住宅を建築したり、登米市内の小中学校全ての学童机(約6,200台)の天板を地域に多く生育するコナラを活用したものに入れ替えるなど、木を使うという下地が築かれている。何かきっかけさえあれば、FSCへの理解も一気に進むだろう。

 「今後は商品力と製品の質を上げ、そのイメージとFSCを結びつけるような形で認証を知ってもらい、商品を選んでもらえるように持っていきたいですね」と語る會津さん。FSCを選んでもらい、事業が増えれば収益も当然増加に向かう。そのためにも公共事業だけでなく、むしろ民間で使ってもらえるようにこの取り組みを発信していきたいと考えている。

 登米市産業経済部産業振興課
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変わりつつある調達のスタンダード

そんな状況の中、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで使用される木材に関する調達基準のなかで、持続可能性の観点からFSCなどの森林認証材を使用することが謳われた。登米市では大会組織委員会が進めるプロジェクト「日本の木材活用リレー 〜みんなで作る選手村ビレッジプラザ〜」の事業協力者となることが決定し、全国42事業協力者の一員として約20m3のFSC認証材を提供することとなった。国際的な祭典でのこうした調達の動きは、今後もオリンピックに限らず多方面において基準となっていくことだろう。

 

 登米市産業経済部産業振興課
藤島斉

紙製品が先行するかたちでFSC認証が広まった日本では、すでにイオン、生協、スターバックスコーヒーといった、名の通った企業がパッケージや紙コップ、商品としてFSC認証紙を選んで使用しており、紙をきっかけに木製品の調達にもFSC材を選択するという次のステップに移行し始めている。こうした流れが進むと必要になるのが供給力だ。その意味では流通を一元化し、供給力の高いポテンシャルをもつ登米市は、他の地域と比べて供給面で有利な位置にいると言えるだろう。登米町森林組合と共に早い時期からCOC認証を取得した(有)ウッディアベ工芸のように、住宅からオーダー家具、スマートフォン用スピーカーなどの木工品まで多様な木製品を自社工場で一貫生産する企業があることを考えればなおさらである。さらに、人口200万人を超す仙台大都市圏に車で1時間ほどの距離という恵まれた立地も、今後は追い風として働くことだろう。

 取材を通じて感じたのは、FSC認証に対する登米市の捉え方だ。受け継がれてきた豊かな森林資源と、それを活用する木材業者のネットワークが存在しているところで、登米産材を売るツールとして認証を使う感覚。喩えるならそれは通行手形ともパスポートとも言える。そのパスポートを手にし、登米市森林協議会は地元の林業の再興に取り組んでいる。興味深いことに協議会では、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成実現のツールとして、FSC認証を活用している。協議会によると、FSC認証によってSDGsの掲げる17の目標のうち14の目標を実現することにつながるそうだが、FSCをそこにつなげていこうとするセンスに感心するばかりだ。この展開は、きっと新たな事業体とのつながりを生むことになるだろう。数年後、登米市のFSCはどのような広がりを見せているのだろうか。再訪する楽しみができた取材だった。

文:藤島斉
※この記事は、2017年に行った取材をもとに再構成したものです。

基本情報

【名称】
登米市森林管理協議会

【所在地】
〒987-0602 宮城県登米市中田町上沼字西桜場18

【主な樹種】
スギ、アカマツ、コナラ、クリ、ヤマザクラ、ケヤキ、クヌギ

【取扱製品】
原木

【問い合わせ】
登米市産業経済部産業振興課(登米市森林管理協議会FM認証管理事務局)

登米市森林管理協議会FM認証材流通事務局(登米町森林組合)

関連coc認証取得者

【名称】
登米町森林組合
有限会社 ウッディアベ工芸
株式会社 佐藤製材所
有限会社 日野製材所