梼原町森林組合

日本におけるFSC認証の黎明期を支え、国内のFSC認証普及に長年に渡って貢献してきた高知県梼原町の梼原町森林組合。国内で2例目、団体としては初めて認証を取得(2000年10月に取得)

梼原町森林組合
藤島斉
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認証を取得しながらも数年で返上する例もある中、1200名を越える組合員をまとめ続けて認証を維持し続ける同組合には、現在も全国各地から視察に訪れる人が後を立たない。一方、19年という年月に、組合には新たな課題が生じ始めているという。それは一体どのような課題なのか。今回のレポートでは梼原町森林組合を訪ね、長年にわたるこれまでのFSC認証への取り組みについて話を伺った。

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環境モデル都市、梼原町

FSC認証を始め、風力発電やバイオマスタウン構想など、積極的な環境配慮への取り組みから国内有数の環境モデル都市として知られる梼原町。町内には合同庁舎やアーチ橋など、梼原町産の木材を使った公共建築物が数多く見られるが、実はこれらの中にはFSC認証取得以前に作られたものも少なくない。梼原町森林組合がFSC認証を取得したのは2000年10月のこと。梼原町ではそれ以前からも林業を核として町づくりが進められていた。

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梼原町森林組合がFSC認証に出会う以前、梼原町で生産される木材には、国内の有名なスギ、ヒノキのようなブランド力はなかった。「どれほどいい材であってもノーブランドの一般材として出すしかなく、日本一の清流として有名な四万十川の上流域で作業している森林組合です、と説明して販売してきました」と、梼原町森林組合の森山真二組合長は当時の様子を振り返る。全国の林産地が木材を売るために競争する中、何かもうひとつ梼原町の材に競争力となるものを作れないかと模索していたという。

そんな折、高知県主催による世界の森林認証制度に関する勉強会があり、梼原町森林組合はFSC認証の存在を認識することになる。当時、同森林組合職員の間には、日本一の清流の上流域に住んでいる者の使命感のようなものがあり、森林組合として環境を意識した森づくりを実践していた。FSCの話を聞いた職員たちは、FSCの理念と森林組合の目指す方向性が一致していると感じ、かねてから模索していた〝競争力〟としてこの国際認証を四万十ブランドに加えて売り出していけるのではないかと考えるようになる。

「梼原町周辺の山のほとんどは、薪炭林の後に造林した二次林です。昭和36年頃をピークに年間200~300haの植林を行ってきましたが、当時はどうやって木を売るかということなど考えていなかったでしょう。いざ売る時期になってみると輸入材は解禁され、国産材市場は急落。ブランド力のない梼原町の木材は窮地に陥ることになりましたが、その状況がかえってどうやって木を売るかということを考えさせ、FSC認証の取得へと繋がったのだと思います」。

当時まだ国内に認証制度がなかったこともあり、国際的な認証制度に挑戦してみようということになった梼原町森林組合。ちょうど時代は21世紀へと変わるタイミングで、「21世紀は環境の世紀」といわれていた。その「環境」に対して自分たちがどういう形で示していけるのか、そのひとつの答えとしてFSC認証が位置付けられた。

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森林法とFSCとのズレを修正する

日本の森林法に沿った森林整備を実践していた梼原町森林組合にとって、FSCの基準や決まりごとは厳しい面もあったが、施行の仕方や森づくりの方向性はFSCの基準や理念と食い違ってはいなかった。ただその一方で、自分たちが常日頃から考えていることとFSCとの間に少なからず差のようなものは存在したと話す森山組合長。「その差を少しでも縮めていくようなマニュアル作りや、決め事、周囲への啓蒙、普及などの活動はよくやりました」と、FSC認証との間にある〝ズレ〟の修正に努めたという。

当初、組合員の中にFSCのことを知る人はいなかった。そこで組合の職員は、当時のメディアに度々登場していた「環境配慮」というキーワードを前面に出しながら、今後の森林整備を進めていくことを全組合員に説明して回った。また、自然との接点が減りつつある子供達に対しても、当時町内にあった4つの小学校に職員が出向き、環境教育を実施。水生生物の個体数調査などを通じ、山を整備することによって川の環境にどのような影響が出るかを調査し、山と川の関わりを学んでもらった。この取り組みは小学校が統合された現在も継続して行われている。

「正直なところFSCを始めた当初は、やらなくてもいい仕事が増えた…、お金にもならないのに…という思いもありました。ただ、風力発電や公共建築物の木造化などを通じてすでに梼原町は環境都市としての評価を受けており、そういうことであればと歩調を合わせ一緒に行っていく間に、自分達の環境意識も開花していきました」。

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梼原町でFSCが成長した理由

こうして2000年の10月、2250haの森林でスタートした梼原町森林組合のFSC認証林。それまでは縁のなかった分野の人の往来も増え、交流人口も大幅に増加。農家民宿やグリーンツーリズムなど新たな動きも増えたが、本来期待していた木材価格への金銭的な還元という意味では、認証を取得して19年が経った今でもまだ目に見えてメリットというものはないという。しかし、それでもこの19年の間に認証林の面積は13,380haにまで広がり、現在は年間約10,000m3のFSC材が生産されている。期待していた「競争力」としての目立った結果が出ていないにもかかわらず、梼原町のFSC認証はなぜここまで伸びているのだろうか。それには、梼原町が独自に設けた交付金制度が大きな役割を果たしたと組合長は説明する。

「FSC認証の取得以前、梼原町では水源林を確保するために交付金制度を作りました。水は命の源です。その水をつくるのが木であり、森であり、その森を適切に管理することが川の上流に住む私たちの取り組むべき仕事だという共通の認識が町内の多くの人の中にあり、交付金の仕組み作りにつながりました」。周囲を山林に囲まれ、森があることが当たり前の環境が広がる梼原町だが、林業の低迷が続くなかでこうした制度が作られた点は非常に興味深い。

ちなみにこの交付金制度では、水源林の整備を目的に間伐をすると1ヘクタールあたり10万円の交付金を受け取ることができ、FSC認証取得後には水源林の整備をした森はFSCに登録するという条件付きの交付金制度として引き継がれた。幸運だったのは、梼原町では町内の森林の履歴をまとめた「林家台帳」の整備を早くから行なわれ、国土調査も昭和58年には100%完了していた。地籍がはっきりしていたおかげで、山の所有者と直接話すことも比較的容易に行え、認証林の面積拡張も順調に進んだ。交付金の後押しを受けながらFSCの啓蒙と普及活動を続けた甲斐もあり、認証取得当初は100名足らずだった組合員も10倍以上に拡大。現在では組合が管理する個人名義の山の8割強がFSC認証に加入している。

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「使う」を重視した間伐

また、梼原町では、水源林を整備する際にただ間伐をするのではなく、間伐材を活用することを重視した交付金制度も設けている。現在、認証林から出る材は1立方メートルあたり4000円、ペレット工場への原木供給は1トンあたり4800円の交付金が支払われ、伐り捨て間伐がほとんどだった20年前とは間伐の様子も大きく変わっている。さらに、認証材の使用に際して一棟当たり10万円を上限とした助成金を受けることのできる制度も整備されるなど、FSCを活かす体制が整っている。

「認証取得に取り組んだ当初、組合職員の中では、いくらFSC認証の基準で山を整備しても、その材を梼原から出たところで評価してもらえなければ、一般材として一緒くたに扱われていた時代と変わらないのではないか、と心配する声が上がっていました」と、話す森山組合長。FSC認証を市場での競争力として活かすためには、認証材の需要が増える必要がある。そのためには製材や加工業者など木材関連業者のFSC_COC認証取得者が増えて、認証製品が製造、販売されていく一連の流れが増えていくことが必要だ。しかし、関連業者にとって当時はまだ海のものとも山のものとも知れないものに取り組むには、FSCというハードルは決して低くはなかった。COCのチェーンを繋げ、チェーンを広げて販売することで需要が上がり、競争力が生まれる。FSCに取り組むハードルを下げ、COC認証取得への一歩を踏み出す取っ掛かりを県や町が交付金や助成金という形で作ってくれることとなった。
「私たち梼原町森林組合が自力でFSC認証を取得したように認識されていることがありますが、高知県や梼原町などの協力があったからこそ認証を取得することができ、現在まで継続して広めることができたのです」と、森山組合長は、梼原町内でのFSCの発展の影にチームとしての協力があったことを強調する。

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19年という歳月の中での変化

梼原町森林組合が認証を取得してから19年、その間にも林業を巡る国内外の情勢は変化し、最近でも2016年には森林法の改正が行われた。国として木材の新しい利用を進め、県内でも木質バイオマスの利用を含めた原木の増産を進めており、高知県として独自の経済戦略も立てている。梼原町でも県の指導を受け、町の森林整備計画において長伐期施業を推進する一方で、町内の森林が全て長伐期でいいのかと慎重を期する声も多いという。

「梼原の森林組合は県下でも早いうちから造林を行ってきました。組合が管理する私有林の半分は50年生以上の森です。県の動きに合わせて長伐期の森づくりにシフトするのも一つの考えですが、いま伐り時を迎えているものについてはこれまで通りに使っていこうという思いもあります」と、話す組合長だが、せっかく50~60年かけて育ててきた材がバイオマス発電に流れることには少なからず抵抗があるという。「林業というものがひとつの循環事業だと考えれば発電事業も視野からは外せません。仕方がないことなのかもしれませんが…」と、胸の内は複雑だ。梼原町の森林が一体どのような機能を果たすのか、ちょうど見直す段階に来ている。

そうしたなか、今一番の差し迫った問題が、林業の担い手不足の問題だ。平成15年に林野庁が「緑の雇用担い手対策事業」を制度化したが、梼原町ではIターン者はほとんど定着しておらず、他の地域でも同様の傾向にある。こうした状況を重く見た高知県は、専門の講師陣から一年間みっちりと林業を学ぶ「林業学校」を開校。現在は林業大学として発展し、全国から集まった有望な人材が林業を学んでいる。この動きに合わせるように、梼原町では独自の担い手対策を行っている。対象は林業に限らず農業、商業にも及んでおり、各業界の担い手不足の対策として助成金を補助する制度だ。現在、森林組合にはこの制度を利用する7名(2019年現在)の就労者がいるが、そのなかの一人は町外から来た人だという。同時に町では移住者受け入れの対応もしており、都市部から人を呼び込む政策も進めている。空き家対策も兼ねて、移住希望者には住宅の斡旋も行っているなど、ここでも各部署がうまく連携している。

また、担い手の問題とは別に、山主の世代更新に伴うFSCの引継ぎという、認証取得当初は想定していなかった問題も生じているという。認証取得から19年の間に山主の世代交代も進んでおり、組合としてこれまで通りに継続していきたい旨を伝えるのだが、後継者によっては「FSCなんて自分には関係ない」と、FSCの継続を拒む人もいるというのだ。

「梼原に限らず、今の時代には山はいらないと〝山離れ〟する人もいます。今後はFSC認証林の面積が縮小されていくということもあり得るわけですが、知らない間に山が知らない人の手に渡っているという最悪の状況は避けたいと強く思います」。梼原の山は梼原で管理して守っていきたい、と森山組合長は話すが、交渉しやすいという意味でも地籍がはっきりしていて山主の所在が把握できているというのは大きなポイントであると改めて感じているという。

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梼原町の「つなげる力」

梼原町森林組合がFSC認証を取得から19年、それは単に認証取得からの歳月を重ねただけではなく、想定外の問題にも正面から向き合い、FSCの年次審査や更新審査の度に指摘される課題をクリアしてきた19年でもある。さらに言うなら、FSC以前から梼原町の林業は脈々と続いてきたものである。吉野や日田などといったブランド力はなかったが、先達は百年先、二百年先を見据えながら、手を抜くことなく森づくりを行ってきた。その結果が、国土調査の早期完了や、森林組合の早期設立(昭和32年)ということにつながり、時代の変化にいち早く対応できる下地を作ってきたのだろう。梼原町のFSC認証はこうした歴代の森づくりの流れのなかで取得されたもので、ある意味でFSC認証取得は必然だったのかもしれない。

「銘木の産地ではない自分たちのような山では、山への取り組みと姿勢を見せていくしかありません。そこを理解してくれる人とのつながりを今後も作っていきたいですね」と、森山組合長は取材の最後に話してくれたが、それは単に5年毎の更新審査をパスすればそれでよしということではなく、その先の5年、そのまたさらに先の5年につなげて活かしていけるようなかたちで常にFSC認証というものを考えていく必要があるのだという。

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現在、梼原町で一年間に取り扱われる木材の85%が認証材にあたるが、販売量となるとその3割程度にとどまる。最終的にはこの数字を10割にまで持っていきたいというが、実現には今以上にCOC認証のチェーンの拡張が必須だろう。関連業者の参加を期待したいところだが、COC認証を取得する側の心理としては、認証に対する費用対効果がないと認証を継続維持できないのが現実で、認証の取得になかなか踏み切れないという例も少なくない。消費者のFSC認証に対する認知度が上がって需要が増えてくれたら…という声は相変わらず多い。

そんな折、2020年の東京オリンピックに絡んで認証材利用の話が新聞などで度々取り上げられている。情報も二転三転して錯綜しているが、認証材を使う使わない云々ではなく、FSCに限らず「認証材」という取り組みそのものが普及して、林業への取り組み方そのものが消費者に認知されて評価を得るような社会になれば、林業地の有名無名に関わらず新たなつながりが出てくるのではないだろうか。梼原町へ視察に訪れる人の流れを見ていると強くそう感じる。

組合職員の中では認証取得当初、山主の世代交代時の問題や、B材やC材まで利用されるほどバイオマスが普及するなど思ってもみなかったことが起きているという。長い年月をかけて取り組む林業という仕事の特性上、何が起きても不思議ではないと言ってしまえばそれまでだが、梼原町ではこうして時代の動きに対応できるよう森づくりを続けてきた。この先も日本の林業がどのような道に進むのかはわからないが、梼原町森林組合の動きを見る限り、時代の動きに対応するための準備にぬかりはない。

文:藤島斉

基本情報

【名称】
梼原町森林組合

【所在地】
〒785-0644 高知県高岡郡梼原町広野647番地

【主な樹種】
スギ・ヒノキ

【取り扱い製品】
原木、チップ・製材品(柱・梁桁・間柱・フローリング材等)

【問い合せ】