FSCジャパンは、「ネイチャーポジティブ」に向けてTNFDをはじめとした企業への情報開示が求められる中、そのような取り組みを支援するFSCの効果検証ツールを日本で初めて紹介するイベントとして、3月28日(金)に東京にて「FSC生態系サービス国際フォーラム」を開催いたしました。FSC認証に取り組む自治体、林業会社、建設業者、日用品・飲料・食品メーカー、小売企業、省庁、NGOなどの多岐にわたる業界から、92名の方にご参加いただきました。
基調講演
基調講演では、ビジネスと生物多様性に関する日本の第一人者である、株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 足立直樹氏にご登壇いただき、ネイチャーポジティブの実現には企業の参加が不可欠であること、世界のGDPの半分以上は自然資本に依存しており、企業におけるネイチャーポジティブに向けた取り組みは待ったなしの状況であることをお話しいただきました。
FSC国際事務局生態系サービスチームからの情報提供
また、来日したFSC国際事務局 アジア太平洋地域気候・生態系サービス主任Rocky Iskandarと気候・生態系サービスプログラムマネージャー Maria Wowroより、グリーンウォッシングのリスクを避けるためには質の高い一次情報が必要であること、FSC認証では森林がもたらす便益を測定・検証するための自主的で追加的な効果検証ツールを用意しており、この効果検証ツールを利用することで、昆明・モントリオール生物 多様性枠組(GBF)の枠組みに沿って報告が可能であり、CSRDやGRI、CDP、TNFDなどの多岐にわたる情報開示の枠組みにも準拠していることをご紹介いたしました。
Rocky IskandarとMaria Wowroのプレゼンテーションについては、以下より動画とプレゼン資料を覧いただけます。
FSC生態系サービス国際フォーラム(Rocky Iskandar, Maria Wowro)
FSC生態系サービスFMインタビュー(Bosco Limite, イタリア)
Mariaのプレゼンテーション内で紹介されたビデオです。
FSC生態系サービススポンサーインタビュー(FDJ, フランス)
Mariaのプレゼンテーション内で紹介されたビデオです。
パネルディスカッション
後半のパネルディスカッションでは、FSC国際事務局 Maria Wowroの他、三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部副部長 松岡哲也氏、立教大学兼任講師・株式会社エコロジーパス代表取締役 永石文明氏、南三陸森林管理協議会 事務局長・株式会社佐久 専務取締役 佐藤太一氏の3名をパネリストとしてお迎えし、「森林の生態系サービスの可視化と価値化」をテーマにディスカッションを行っていただきました。
冒頭に話題提供として、松岡哲也氏から金融機関として実施しているサステナブル・ファイナンスや自社林の取得について、永石文明氏から生態系調査のプロとして具体的な生物多様性モニタリングの進め方について、最後に佐藤太一氏よりFSC FM認証取得者としての経験を踏まえた南三陸でのTNFD との親和性調査など、森林管理者としての具体的な取り組みをご紹介いただきました。
パネルディスカッションでは、ネイチャー・ポジティブ経済の実現にむけ、どのように森林の多面的機能を見える化し、それに価値を付け森林に経済的に還元するかについて議論が行われ、以下のような内容が話されました。
- 企業の自然保護活動を社会貢献活動として捉えるのではなく、本業に直接的に関連する自然関連の取り組みを把握するところから始め、自社の方針や事業活動の中に生物多様性活動をきちんと位置付けること、またそれを従業員が理解し納得できる活動に落とし込み、組織の中に浸透させることが重要。
- 森林管理者も、それを支援するスポンサー企業も、スモールステップで、小さな取り組みから始め、広げていくのが良い。例えば森林管理の現場においては、「下草を守る」などの象徴的なわかりやすいアクションから始めることで取り組みやすい。
- ネイチャーポジティブへの取り組みは、単独で行うのではなく、研究者やNPO等の地域ステークホルダーや、バリューチェーン上の事業者と連携して実施することで、多様な知識や経験を活用できる。
- FSC認証は、取得時に用意するマニュアルや審査レポートとして既に情報がまとまっているため、LEAPへの活用など、情報収集ツールとしての有用性もある。また、FSC認証をきっかけにコミュニティが広がり、多様なステークホルダーを巻き込んだ取り組みにつながりやすい。
ラウンドテーブルディスカッション
最後に、8つのテーブル毎に参加者の皆さま同士でのラウンドテーブルディスカッションを行っていただきました。どのテーブルも非常に盛り上がり、以下のような課題や意見が共有されました。
- カーボンニュートラルのようにゴールが明確なものに対して、生態系サービスはケースバイケースの取り組みになりやすく、他社事例を参考にするのが難しい。
- 社内でも現場や経営層の理解を得ることが課題。
- 価格プレミアのためには、サプライチェーンの最下流にいる消費者の認知も重要。
- サステナビリティの取り組みは、企業の採用において重要な要素を担っており、地域のブランド化にも活用できる可能性がある。人材確保の観点で、企業や自治体の存続にも関わる。
- ネイチャーポジティブ、カーボンニュートラル、エシカルなど様々な用語があり、構造的にまとめた情報が必要。
- トランプ2.0の時代にEU主導の取り組みが世界的に広がるのか。また、日本においては物価高でエシカル志向が後退している可能性もあり、そのギャップをどう埋めていくのか議論が必要。
- 学生や子供たちの世代では認知度が高く、子供から親への普及も起こっているため、そういった対象に向けた普及啓発も必要。
- サステナブルな製品を取り扱う企業の負担が大きい中、規制や公共調達による支援も必要。
参加者からは、多種多様な業界の方々やサプライチェーンの川上と川下の方々と、お互いの課題を共有し情報交換できる貴重な機会だった、効果検証ツールのより詳しい内容や海外の事例についても知りたい、などのご感想をいただきました。
FSCジャパンでは、ネイチャーポジティブに資する制度としてFSC認証をご活用いただけるよう、引き続き積極的な情報発信を行ってまいります。
開催概要
名称:FSC 生態系サービス国際フォーラム
日時:2025年3月28日(金)13:00~17:00
会場:プラザエフ 地下二階 東京都千代田区六番町15番地
主催:FSCジャパン
主なプログラム
○来賓挨拶:林野庁 森林利用課課長 石井洋 氏 、環境省 自然環境局 生物多様性主流化室 室長 永田綾 氏
○基調講演:株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 足立直樹 氏 「ビジネスと生物多様性〜森林を中心に」
○ FSC国際事務局生態系サービスチームからの情報提供
・FSC国際事務局 アジア太平洋地域気候・生態系サービス主任 Rocky Iskandar
・FSC国際事務局 気候・生態系サービスプログラムマネージャー Maria Wowro
○パネルディスカッション
・三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 副部長 松岡哲也 氏
・立教大学兼任講師、株式会社エコロジーパス 代表取締役 永石文明 氏
・南三陸森林管理協議会 事務局長、株式会社佐久 専務取締役 佐藤太一 氏
・ファシリテーター:FSCジャパン指針・規格マネージャー 三柴ちさと
○ラウンドテーブルディスカッション