今回は「生態系・生物多様性保全とステークホルダー・エンゲージメント」と題し、生物多様性の専門家として長年にわたり企業や多様なステークホルダーと連携し、生態系・生物多様性保全に取り組んでこられた立教大学兼任講師・株式会社エコロジーパス代表取締役の永石文明氏を講師にお迎えしました。

生物多様性の保全を考える上では、限定的な地域にとどまらず、生物が存続できる環境を広域で捉え、生息地をつなぐ「エコロジカル・ネットワーク」の概念が重要です。さらに、この広域的なネットワークを維持・強化するためには、企業、自治体、大学、市民など多様な主体によるパートナーシップが不可欠であるとの考えが示されました。

FSCの規格においても、ステークホルダー・エンゲージメントは多くの要求事項を通じて強調されていますが、このセミナーでは特に、単なる対話や情報共有にとどまらず、共通の目標や課題解決に向けて、対等な信頼関係を基盤とした共同の取り組み=パートナーシップに焦点を当てるものでした。多様なパートナーが専門性や強みを持ち寄ることで、経済的な継続性が確保され、リスクの分散にもつながります。

では、異なるセクターの人々と協働関係を築き、発展させるにはどうすればよいのでしょうか。その鍵として、①多様な参画、②学習権の保障(ステークホルダーの成長促進)、③情報の対称性(公平な情報開示と共有)、④関係的過程の存在(信頼構築)の4要素が重要であると紹介されました。

さらにこうした考え方を体現する具体的事例として、
•    さいたま緑の森博物館所沢地域の里地里山再生プロジェクト
•    鹿児島県姶良市「JTの森重富」
•    佐川急便「高尾100年の森」
の3つの取り組みが紹介されました。
所沢の事例では、大学による呼びかけを契機に地域住民への丁寧な聞き取りが重ねられ、住民主体の「八幡湿地保存会」が設立。その後の自主的な活動につながりました。さらに下流域の団体との連携へと広がり、生物多様性や景観の保全にとどまらず、地域文化の継承や流域全体のコミュニティ強化へと発展しています。

「JTの森重富」では、「楽しむ・守る・学ぶ」を軸とした森づくりビジョンを掲げ、質的社会調査を通じたパートナーシップ構築が進められています。その成果として、生態系モニタリングや環境活動に活かされています。また、「高尾100年の森」では、教育機関・地域住民・ボランティアの協働による里山管理が行われ、高校生・大学生の活動の場としても機能しながら、継続的なモニタリングが実施されています。

近年、国際的な生物多様性保全や「ネイチャー・ポジティブ」の潮流を背景に、企業の環境保全への関心が高まっています。森林管理も、林業者のみに留まらず、多様なステークホルダーとの連携が注目され、その機会も高まっています。FSCの規格で求められる生物多様性等のモニタリングも森林管理者自身が行うとすると負担となる作業でも、他者とのパートナーシップの連携や教育・地域活動の機会となり得るものであり、それにはまず、様々なステークホルダーとの対話が必要であることが示されました。

本セミナーには127名の方々にご参加いただき、大変盛況のうちに終了しました。
セミナー資料は以下のリンクからダウンロードいただけます。講演の録画は、ご登録者またはお問い合わせいただいた方のみに公開しております。

責任ある森林管理のための勉強会第19回資料.pdf
PDF, サイズ: 12.06MB