吉田本家山林部

地域に貢献して三百有余年。吉田本家山林部がFSCの先に目指すもの。

『時は元禄十五年、草木も眠る丑三つ時…』。
時代劇ファンならすぐにピンとくるだろう。ご存知、赤穂浪士の討ち入りのシーンでおなじみのナレーションだ。今から約300年前、元禄15年(1702年)に創業したのが三重県度会郡大紀町の吉田本家山林部だ。醸造業で成功した初代吉田善三郎氏が始めた山林は現在、約1,200ヘクタール。6市町村、300箇所に点在している。

吉田本家山林部 (© 藤島斉)© 藤島斉「元禄以降、度々見舞われた飢饉で立ち行かなくなった周辺の集落を支え、徐々に山を増やしていったそうです」と、山が点在する理由を説明してくれたのは、吉田本家当主の吉田正木氏。地域の名家として代々地域に貢献してきた吉田本家の当主は、先代善三郎氏で十一代を数える。当然、現当主の吉田正木氏が十二代目を襲名するところだが、「これまでのように地域に貢献していくには木材の価格が下がり過ぎました」と、自ら襲名をしないことに決める。

当主としての初の仕事

木材需要の減退や輸入材など競合材の増加による国産材の低迷。こうしたタイミングのなか、2003年に吉田氏は先代から「自由にやってみなさい」と家督を継ぐ。当主になって最初の仕事、それがFSC認証取得だった。実はその3年前の2000年、同じ三重県の速水林業が日本初のFSC認証を取得した。当時神奈川県の大学に通っていた吉田氏は、今後はこの制度が日本のスタンダードになっていくだろうと興味を持ったという。 「私たち人類は何らかの資源を使って生きているわけです。鉱物資源や石油資源と異なり、木質資源は再生可能で持続的な利用が可能な資源です。ただし、木質資源ならなんでもいいわけではなく、世界的には今なお森林の破壊や減少が続いています。そういう木材と、そうでない木材を明確にしていくことが日本のスタンダードになると思いましたし、スタンダードにしていくべきだと思ったのです」。 

大学を卒業した吉田氏は、その後、森林認証制度を学ぶため三重大学に入学するが、結果的に、自らの認証取得の体験が研究の対象になったという。創業以来4回、5回と収穫している山もある吉田本家山林部の山。300年に渡って持続的な林業を実践してきただけあり、審査に際してそれほど特別な作業はなかったそうだ。 「認証取得から10年以上経ちますが、残念ながらFSC認証は日本のスタンダードになっていませんね」という吉田氏だが、適切な管理で生産された木材とそうでない木材を明らかにすることをスタンダードにしていく、という思いは今も変わらない。

ITを活用した新たな取り組み

FSC認証取得後、吉田氏は6市町村に点在する吉田本家の山林約300箇所の正確な位置を把握するための作業に取り掛かる。山林の境界を確認するために現地を訪れ、その際にハンディタイプのGPSシステムをいち早く導入。それまでは手書きの地図と施業時に作った測量図しかなかったが、GPSの位置情報を地図上に落とすことで、正確な分布図が完成した。さらに、山林の情報と地図情報をリンクさせた森林GIS(地理情報システム)の利便性に注目。高価な機械なためなかなか普及しなかったGISを、個人の林業家でも購入できるようにと、栃木県の企業と共同で廉価版GISの開発を進める。

針葉樹の潜在能力を引き出す新会社の設立

吉田本家山林部 (© 藤島斉)© 藤島斉林業のIT化を進める一方、吉田氏は木質エネルギーとして薪の活用に取り掛かる。2010年に「株式会社ひのき家」を設立、代表取締役に就任する。2012年にはカナダの薪ストーブメーカー、パシフィックエナジー社と輸入総代理店契約を締結した。「国産材の需要が低迷する中、山では木が過剰になり、日本では森の木を使わなさすぎることで森が元気をなくすようになりました。この状況を打開するため、間伐材や山中に切り捨てられた間伐材、柱をとった後の根元の材などを燃料として供給し、木質資源として価値を持たせようと思ったのです」。

通常、薪ストーブに使用する薪はカシやクヌギ、ナラなどの硬くて重い木が適しているといわれ、油分の多い針葉樹は燃焼時間が短く、燃焼温度が高くストーブが傷みやすく、煤やタールが出やすくてメンテナンスに手間がかかる…などと敬遠されてきた。一方、ひのき家が扱う薪ストーブは、燃焼効率がよく堅牢な設計なのでスギ、ヒノキといった針葉樹も安心して使うことができる。近年、人気上昇中の薪ストーブだが、薪の入手が困難という理由で諦めている人も少なくない。スギ・ヒノキが薪として利用できるということであれば、薪の入手方法はかなり広がることだろう。

「針葉樹は薪割りも簡単で、着火性も高い。なにより、通常は山で朽ちていたものが製品になるわけです。燃料としての薪の有用性が一般に広まれば生産も増えて山間部での経済循環が産まれ、外国から燃料を輸入しなくても済むので、富の流出を減らすことにも一役買います」と、吉田氏は木質エネルギーを利用することのメリットを挙げる。

吉田本家山林部 (© 藤島斉)© 藤島斉

吉田本家山林部 (© 藤島斉)© 藤島斉また、「ひのき家」が薪ストーブとともに取り組むのが、ギターやカホンといった楽器への木材利用だ。現在、ひのき家のショールームにはヒノキなどを使ったギター、ウクレレ、カホン、スリットドラムなどが並び、2012年には吉田氏の実弟でひのき家の店長を務める堀木元木氏を中心に「ザ・ヒノキーズ」というバンドを結成して『山からの贈り物』という曲を作って披露しているという。「今はまだCOCは繋がっていませんからFSC認証のマークはついていませんが、楽器は材積あたりでみると、建築材などと比べると高額な商品です。FSCの認証製品として流通させることができたら面白いことになるでしょうね」。町内の工房で製作されているひのきカホンは最近では大阪市内の楽器店でも扱われるようになり評判も上々で、プロのミュージシャンにも使われているという。

吉田本家山林部 (© 藤島斉)© 藤島斉

“木”そのものを広める

こうした木材資源の利用とは別に、吉田氏がここ数年力を入れているのが「LEAF(リーフLearning about Forests)」という森林環境教育プログラムだ。LEAFとは北欧の森林業界が林業の普及と啓発を主目的に開発したプログラムで、生態学的、社会的、経済学的、文化的な観点から森林の果たす役割が学べるようになっている。「もともと北欧の林業家や木材関係者の組織が、将来の木材需要を増大させる為に自分たちの作る木のことを知ってほしいという思いで始めたものです。森林の持つ多様な側面をバランスよく引き出すことに重きをおいているところなどFSCの考えと通じるところも多くあります」。吉田氏の話では、実際に林業をなりわいとしている人が環境教育をするというところが最大の特徴で、現地では『自分たちは将来のお客さんを育てているのだ』という気持ちで取り組んでいる。20年で自分たちの木材需要を倍にするという目標を立て、実際に目標は達成されており、林業や木材産業は重要な産業となっているという。

日本の場合、環境教育というと植樹体験や、森林の公益的機能の話など、環境に関する一つの側面だけを取り上げて終わることが多く見られる。とくに林業における経済学的な面について触れられることは稀で、林業をなりわいとする林業家が置き去りにされている印象だ。林業をなりわいとし、林業で生計を立てている人による環境教育。吉田氏が力を入れる理由がそこにある。 「その活動によって森林の様子がこのように変わっていくということや、自分たちの暮らしと森がこんなに身近に繋がっているのだということを知ってほしいですね」。

吉田本家山林部 (© 藤島斉)© 藤島斉経済、社会、環境…これらをそれぞれ切り離して考えるのではなく、それぞれの活動は相互に作用していることを森を通じて気づいてもらいたい。そうした思いを胸にLEAFのインストラクターとして全国を飛び回る吉田氏。「最近は認証を広める前に、もっと幅広く、森林や森のめぐみである木について広めていく方が必要で、認証の話はその次の段階であると感じています」。
300年にわたって再生可能な林業を持続してきた吉田本家山林部、その当主の感覚に触れた子供達がこの先どのような倫理観をもって大人に成長するのか。20年後の彼らと会うのが楽しみだ。


文:藤島斉

基本情報

認証の詳細については名称をクリックいただくとご覧になれます。

【名称】
吉田本家 山林部

【所在地】
〒519-2703 三重県度会郡大紀町滝原1025−1

【主な樹種】
ヒノキ、スギ

【問い合せ】

  • 電話番号:059-886-2502
  • メールアドレス:machaki@ma.mctv.ne.jp
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