速水林業

FSCの扉を開けた林業家が拓く次の扉

速水林業 (© 藤島斉)© 藤島斉

2000年2月、日本におけるFSCの扉が開かれた。三重県北牟婁郡紀北町、江戸の昔から「尾鷲ヒノキ」の産地として知られた林業地で日本初となるFSC認証林が誕生した。取得をしたのは寛政2年(1790)からヒノキを主体とした林業を続けてきた速水林業。今や全国33都道府県に34件、認証林の総面積約42万haを超えるまでに広まった日本のFSC認証だが、すべてはこの森から始まった。

森林認証制度との出会い

速水林業 (© 藤島斉)© 藤島斉機械化による作業の合理化や、自然環境への配慮など、先進的な林業経営で林業界に常に新しい風を吹き込んできた速水林業。現在代表を務める速水亨氏がFSC認証に出会ったのは1998年の1月、極寒のフィンランドはヘルシンキで開催された、国際規格を策定するための非政府組織「ISO(国際標準化機構)」の国際ワーキング会議に日本の代表者の一人として出席したときのことだった。
当時ISOでは、林業に対してISO14000シリーズ(環境マネジメントシステムに関する国際規格)を適用しようと準備を進めていた。森林の所有者ではなく、外部の組織が森林管理を評価する第三者証明。日本ではまだ誰も考えていなかった第三者認証というものについて議論が行われている事実に、速水氏は驚いたという。
「世界の木材貿易の半分以上の量を扱うような人たちが、国の政府でもないのに世界各国の森林管理を懸命に議論している。その事実が印象深かったですね」と、当時を振り返る速水氏。「これは人工林を生業にしている限り、第三者証明というものを知っておかないとヤバイことになるなぁ、と考えながら帰国しました」。

フィンランドでの会議から帰国した速水氏を待っていたのは、国際的なネットワークで活動する自然環境保護団体の森林担当者だった。速水氏によれば、ISOの国際会議期間中、会場の周辺では森林問題に注意深く注目している環境保護団体が、ISOで森林を認証することの危うさについて問題点を指摘していたという。会議にはFSCインターナショナルの議長も参加しており、FSCの存在だけは知っていた速水氏だったが、帰国後、接触してきた森林担当者からFSCの詳細を聞き、ISOとFSCの違いを理解したという。
「ひとことで言えば、ISOはシステム、それと異なりFSCはパフォーマンスの認証だと理解しました。いくらシステムが優れていても、樹木が育つ森林そのもののパフォーマンスがちゃんとしてないとだめ。森林はそれ自体が環境そのものですからね。その意味で、森林にはパフォーマンス認証のほうが正しいだろうという結論が自分の中にありました」。

FSC認証取得へ

速水林業 (© 藤島斉)© 藤島斉その後ほどなく、速水氏はFSC認証取得へ取り組むことを決める。「FSCにしても、ISOにしても、第三者認証ということを世界が注目する一方、日本では政府を含む林業関係者の誰一人として第三者認証ということに対価値を見出していませんでした。その事実に対する危機感、このままでは日本は世界の林業から置いていかれるだろうという思いが、認証取得へと向かわせたのかもしれません」。
当時、林業界の異端児として自身の言動が業界の内外に注目されていることを自覚していた速水氏は、FSCという新たな風を起こしてみることにした。

これといった資料もなく、手探り状態で始まったFSC認証取得の準備だが、速水氏はまず手始めにFSCの10の原則と56の基準に対し、速水林業が行っている作業を当てはめる作業から始めることにした。「例えば、この作業のこの配慮はFSCのこの基準に当てはまるな、という具合に一つひとつ作業配慮と基準の関係をチェックしてみました。審査の直前になってブラジルで行われた審査の基準書が送られてきましたが、読んでみると驚くことにブラジルも日本も林業の根本的な視点は変わらないということが分かりました。それこそが国際的で普遍的な森林管理へのFSCの視点だと気づかされました」。

速水林業 (© 藤島斉)© 藤島斉審査は無事に終了、速水林業は国内最初のFSC認証を取得した。速水林業の所有する森林は以前から多くの見学者が訪ねてきていたが、代表的な大田賀山林には林業関係者だけでなく、様々な立場の人々が毎年約2000名の見学に訪れ、その誰もが人工林という名からは想像しがたい美しい森の姿に感動する。すらっと伸びた太いヒノキ、その足元にはシダが下草として生え、中間層には広葉樹が枝を広げる。速水林業が目指す典型的な森の様子だが、これだけ植生が豊かなわりには樹冠から日光が降り注ぎ、林内は思いのほか明るい。
「ヒノキの林の中に広葉樹と下草があり、それでいながら最高級のヒノキを育てる。自然が豊かになるとヒノキのレベルが落ちるという誤解がありますが、このように混生させることによって土壌を豊かにし、いつまでも成長させると年輪がきれいに育つのです」。特別なことはしておらず、間伐を強くするだけ。やってみれば簡単だと、速水氏は言う。

FSCノススメ

速水林業 (© 藤島斉)© 藤島斉「私が苦労するくらいならFSCは日本で普及しないと思っていました」。初めての審査のときに苦労した点は何かという問いに対しそう答える速水氏だが、しっかりと林業を行っている日本の森林であれば、誰でもFSC認証を取ることができると思ったという。たしかに、東南アジアなどで横行していた破壊的な林業を改善するために誕生したFSC認証と、数百年にわたって植林と伐採を繰り返してきた日本の持続的な林業の相性はいいはずだ。
「世界的には取得が難しいFSC認証が、日本では取得しやすいのであれば、日本はこの認証を選択するべきだと思います」。速水氏はそうすることが結果として、違法伐採材や先住民の人権を侵害するような破壊的な林業に由来する材が輸入されることのバリアになると言う。

今年の2月に、違法伐採材の輸入を禁止する米国レイシー法に違反したとして、アメリカのフローリング木材販売の最大手であるランバー・リクイデーターズ・ホールディングスが米裁判所から罰金1320万ドル(約15億5500万円)の支払いを命じられたと報道された。日本でも現在、違法伐採木材取引についての規制法案が検討されているが、実際に法律ができて施行されるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。速水氏の言うとおり日本の森林がFSCに向いているのであれば山主は積極的に取り組み、国も法律などを整備してバックアップしてはどうだろうか。かつて違法材天国と不名誉な名で呼ばれた日本が汚名を返上する絶好のチャンスだろう。

もちろん、審査費用を負担してFSCに取り組むとなれば、山主はそこに何かしらのメリットを見出したいと思うだろう。「認証というのは、認証を取ることだけを目的にしていてはメリットが薄い。ただし、実際の審査ではその過程の中でさまざまな議論を交わすことができます。コンサルティングを受けたと思えば審査にかかる費用も払う価値があるのではないでしょうか」。
使わなくていいお金を使い、やらなくてもいい手間をかけ、情報も公開する。FSCに取り組むことは、自分は将来までしっかりと林業をやるということを周囲に宣言するようなもので、林業家にとってはある意味で“踏み絵”ですね、と速水氏は表現する。

この先の課題と「森林再生システム」という扉

速水林業 (© 藤島斉)© 藤島斉日本にFSCが上陸して今年で17年、「FSCは“自らの森林が世界の中でどのポジションにあるか”という林業経営の新しい評価方法を教えてくれた」という速水氏だが、一方では一般の消費者に対してもっと知名度を上げる必要があるという。そのための課題として、“認証木材の流通量を増加させること”、“日本の林業に適した国内基準づくり”の二点を挙げる。「FSCは良いことだし、広がるべきこと。世の中の流れもFSCを待っている状態です」と速水氏が言うように、CO2の吸収源、木質バイオマス利用など、国民の森への期待は年々高まっている。FSCが現在よりももっと身近になり、身近にある森林に対して、その在り方と問題点の理解が進めば、よい形で森林も循環するだろう。

こうした背景を踏まえ、速水氏は「森林再生」というテーマに、正面からビジネスとして取組む会社『森林再生システム(FoReSt)』を立ち上げ、代表取締役としてその舵取りを始めた。速水林業で培ったノウハウを惜しみなく活用し、眠っている森林の価値を最大限引き出して、具体的な解決方策を提示していく同社。現在は大手自動車会社の所有森林の管理をはじめ、法人の森林管理の相談にのり、今まで誰も考えなかったような新しい林業経営の扉を開こうとしている。同社の活動が今後どのように国内を吹き抜けるのか、林業界の異端児が開いた新たな扉の先に広がる世界を早く目にしてみたい。


文:藤島斉

基本情報

認証の詳細については名称をクリックいただくとご覧になれます。

【名称】
速水林業

【所在地】
〒519-3413 三重県北牟婁郡紀北町引本浦

【主な樹種】
ヒノキ、スギ

【取扱製品】
原木、エッセンシャルオイル

【問い合せ】

  • 電話番号:0597-32-0001
  • メールアドレス:hayami_forest@ztv.ne.jp
  • ウェブサイト

関連CoC認証取得者

【名称】
森林組合おわせ

【取扱製品】
原木、建材、ベニヤ、家具、おもちゃ、木製雑貨

【問い合せ】

  • 電話番号:0597-35-0877
  • ファックス:0597-35-0890
  • メールアドレス:mono_owase@owase.or.jp
  • ウェブサイト
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