田中林業株式会社・檜原村

「東京×FSC」二つのブランドで見えてくる“総合的森林業”という新たな林業のカタチ

田中林業株式会社・檜原村 (© 藤島斉)© 藤島斉東京都西多摩郡檜原村。かつては炭を生産し、江戸百万人都市の生活を支えるエネルギー基地として栄えたこの村に2つのFSC認証林がある。認証を取得するのは檜原村と、同村で江戸時代初期から十五代続く田中林業株式会社。どちらも2012年の取得と、国内の認証林の中では比較的新しい。

「森林に付加価値をつけたいという考えからFSC認証に取り組みました」と、檜原村がFSC認証を取得した経緯を説明する産業環境課の谷合謙信さん。薪炭林の生産基地として栄えてきた檜原村の山林だが、一方では家や柱の材をつくる文化もあり、かつては複数の製材所が村内に点在した。その後、全国的な林業の低迷期に入ると村内の林業も衰退。低迷を続ける現状をどうにか打破したいという思いでたどり着いた答えがFSCだった。

FSCを核とした新たなまちづくり、と一気に進みたいところだが、現在、檜原村が所有する認証林は18.55ha。檜原村全体で9,750haある森林面積からみると、FSC認証林の規模は小さい。「現在は毎年行われる年次監査を受けて課題を一つ一つクリアしながら、今ある認証林を確実に整備し、モニタリングしていくことに集中しています」と、谷合さん。そうすることで、周囲の民有林にもFSCが広まることを期待しているという。

15代目が選んだ第三者による認証制度

田中林業株式会社・檜原村 (© 藤島斉)© 藤島斉FSCに関してはまだまだ手探り状態な檜原村に対し、はっきりとしたビジョンを持ってFSCに取り組むのが、檜原村で15代続く田中林業株式会社の田中惣一社長だ。認証取得は2012年と最近のことだが、林業経営者協会の会合などを通じ、比較的早い段階からFSC認証を意識していたという田中社長。「森林をどのように管理し、どうPRしていくのか。持続可能な森林経営という目で見た時、FSCはツールとして非常に大きな効果を持っていると思います」とFSCを評価する。なかでも田中社長が評価するのが、第三者による公平な評価と、情報の透明性だ。

「これまでの日本の林業には、第三者から客観的に評価されるということがありませんでした。
近年、森林の持つ公益的機能が見直されて、それに対する補助金が山に使われています。これだけ情報公開が叫ばれる世の中で、貰うものだけ貰ってあとは内緒、では納得もされないでしょう。山主としてはそれに対しての情報公開を行うのがスジだと思うのです」。

自分の山が第三者からどのような評価を受けるのか、以前からとても興味があったという田中社長。森林認証の取得に際しFSC認証以外の認証も検証し比較したが、より厳しい審査基準での評価を望みFSC認証を選択する。
「認証を取ることが目的であれば別の認証でもよかったのでしょう。ただ、国内では他の認証に先駆けて森林認証という概念を普及し、製紙業界の商品化も進んでいて既に一般家庭の中に入り込んでいました。複数の環境NGOも推薦していましたし、認証について一般の消費者がどう判断するか、取得した認証をどう自分の経営に取り入れていくか、ということを考えたとき、選択肢はFSCしかありませんでした。」

認証を取得することによって客観的な評価が行われ、情報公開も行われる。補助金を使う側として、FSCへの取り組みはとても意義のあることだと思うと田中社長は話す。

東京都というロケーション

田中林業株式会社・檜原村 (© 藤島斉)© 藤島斉では、認証を生かした林業経営とは具体的にどのようなものなのか。その問いについて田中社長は、「単純な木材生産だけでなく、例えば“森を訪れる”というツーリズムの要素を含んだ経営です」と答える。自然観察会や間伐体験など、森の一部をレジャーのフィールドとして解放する例は全国的に見られるが、田中社長は都心から車で1時間強で来られる檜原村の恵まれたロケーションのメリットと“東京都にある森”というに注目する。

「FSCを取得して一番感じるのは、これまでとは接点のなかった分野の方と接点ができたことです。FSCの取得によって森の情報がオープンになったのが大きな要因だと思いますが、野鳥愛好家が訪れて観察会を開催したり、昆虫マニアが昆虫採集に来るようになったのは、都心からすぐに来られるという立地条件に依るところが大きいでしょう」

人が訪れるための条件としてまず重要になるのが、そこに何があるのかという情報の公開だ。FSC認証は情報公開が原則である。森で行ったモニタリング調査の結果をデータとして公開することで関心を持つ人が増え、気軽に訪れることができるという「場所」の条件が揃うことで人の流れが生まれたのが田中林業の森だ。二つの条件が揃うことで生まれた人の流れは、一部の愛好家にとどまらず、CSRの取り組みに力を入れている企業にも注目されるようになった。

認証取得以来、田中林業では三菱製紙販売をはじめ、イオン、日本テトラパック、メリタ・ジャパンなどの企業とイベントや共同プロジェクトを行っている。しっかりとした情報公開をしていれば、企業の方で魅力を見出してくれることを学んだという田中社長。「日本の首都東京にある森という意味では認証取得以前と変わりませんが、その森をどうやって広めていくかと考えると、FSCがあることで説明しやすい部分があります。認証を取得する以前から、木材生産だけではなく森林を総合的に利用して収益を上げる“総合的森林業”ともいえる林業経営の可能性を考えていましたが、FSCの理念との間に合致しているものが多く、十分に可能性があると感じました。」

ユニークな森の様子と試み

田中林業株式会社・檜原村 (© 田中林業株式会社)© 田中林業株式会社総合的森林業。森林を総合的に利用する新たな林業のビジョンを持つ田中社長だが、すべてのベースは森林にあることは言うまでもない。では、田中林業の山とはどのような山なのか、さっそく田中社長の案内で山を訪れると、そこには広葉樹と針葉樹が見事な市松模様を形成するユニークな景色が広がっていた。
江戸の燃料基地として栄えた檜原村を含む秋川流域の山は、ほとんどがコナラ、ミズナラなど落葉広葉樹による薪炭林だった。明治に入って針葉樹が植えられるようになり、針葉樹と広葉樹の比率が半々という現在の姿になった。針葉樹と広葉樹が混在する山は全国でも見ることができるが、針葉樹と広葉樹がここまで整然と区分けされた風景はなかなかお目にかかれない。FSCの審査でも針葉樹と広葉樹のバランスが取れていて、景観的にも優れているという評価が高かったというが、目の前に広がる山並みを見ればその評価も頷ける。

視覚的にユニークな田中林業の山だが、施業に関してもユニークな試みが行われている。なんと、広葉樹林において皆伐ならぬ「間伐」が行われているのだ。間伐による効果はてきめんで、木の成長は促進され、将来的には太くなったところで家具の用材として利用するという。
「国内では家具に利用できる広葉樹がなくなったと言われて随分時間が経ちます。そのことに対して大きな対策がとられる様子もなく、結局は木材を海外から持ってきて対応しているが現状です」と話す田中社長。国産材の利用が叫ばれるのに、なぜ広葉樹に関しては手付かずなのか。ジャパニーズオークであるコナラ、ミズナラは昔から家具の材として利用されてきたことを踏まえれば需要は間違いなくあるだろう。昔から継承されてきた木工技術の継承という意味でも、家具用材の生産に取り組む田中林業の試みは興味深い。

田中林業株式会社・檜原村 (© 藤島斉)© 藤島斉また、さらにユニークな取り組みとして、イタヤカエデの樹液を使ったメイプルシロップ作りも行っている。沢沿いに群生するイタヤカエデの量が限られているので、生産して収益につながるまでには及ばないそうだが、メイプルシロップの採取体験をプログラム化して人気を呼んでいる。今後はさらにコスメへの利用も考えているというが、こちらも今後の展開が楽しみだ。

COC認証への準備

田中林業株式会社・檜原村 (© 藤島斉)© 藤島斉現在、田中林業では木材生産の森づくりを進める一方で薪の生産も行っている。昨年には炭窯も新設し、原木以外の商品作りにも動き始めた。「以前から何か森から出てくる商品を作りたいと思っていたのです」と田中社長。薪と炭を生産して販売していけば、広葉樹も針葉樹のように循環させることができ、針葉樹に偏っていた収益を広葉樹にも振り分けることができるのではと考えている。
「都内では先の震災以降、薪の需要が年々伸びています。エネルギーの選択肢が増えたということもあるでしょうし、インテリアとしての薪ストーブの需要が伸びているのも要因です」。
石窯のピザ屋さんなど業務用で薪を使うお店からの引き合いも多く、外食ブームが追い風になっているという。

田中林業株式会社・檜原村 (© 藤島斉)© 藤島斉一方、企業などからはノベルティ商品などの問い合わせも来るそうだが、檜原村周辺にはCOC認証を取得している製材店がなく、チェーンを繋ぐのが難しいのが現状だ。ハウスメーカーや、紙関係の企業からは檜原村を含む多摩産材のFSCの認証材が欲しいという問い合わせも度々入るそうだが、現状では一度地方に送って製材しなくてはならない。せっかく声をかけてくれる企業とFSCを上手く繋げられないか、そういうことも含めて田中社長は檜原村近郊の製材所に声をかけ続けている。
「地産地消的な面と、環境的な面を考えれば、山から近い場所にCOC認証があった方がいいのですが、やはり安定的な仕事が確約できないとCOCの取得というところまでは辿り着かないですね」。
現状はまだまだ厳しいが、ゆくゆくは自らがCOC認証を取得するということも視野に入れて周辺地域の製材所などに声をかけ続ける田中社長。もしも自分でCOCまでやるとしたら、住宅のような大きなものではなく、消費者が身近で使えるような製品を世に出したいと話す。

現在、2020年に開催される東京オリンピック関連施設に関する調達方針で“認証材”が注目を浴びている。降って湧いたオリンピック需要に色めき立つ林業関係者もいる中、かつての長野オリンピックの際の悪い例を目にしてきた田中社長は、オリンピックだから特別どうこういうことではないと、現状を冷静に分析する。

「林業というのはオリンピックのあとも続くわけです。目先だけでなく、長い目でみていかなくてはならない仕事です。今すぐには無理ですが、まずは5年後、10年後にはCOCを取得して“東京のFSCグッズ”を作ってみたいですね。これまでの林業は用材生産だけに偏り、それを前提に林業はダメだとばかり言っていましたが、それでは先に進まないでしょう。もっと森の総合的価値を考えればまだまだ何かあるだろうと思います。ビジネスチャンスは何かしらありますよ。」

総合的森林業と銘打ち、森に潜むポテンシャルを引き上げる田中林業の試み。その結果は意外と早く出てくるような気がして楽しみでならない。


文:藤島斉

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