東白川村森林組合

岐阜県グループ (© 藤島斉)© 藤島斉岐阜県加茂郡の最東端、周囲を高さ1,000m級の裏木曽山系の山々に囲まれた山あいの一画に岐阜県で一番小さな村、東白川村はある。高級建材「東濃ひのき」の主要な産地として知られ、銘木を求める目の肥えた〝目利き〟たちの間では、いち目も〝二目〟も置かれる林業地である。
低迷を続ける日本の林業界にあって、比較的高値で取引されるこの東濃ひのきを育てる東白川村森林組合がFSC認証を取得したのは2003年のこと。全国的に木材価格が低い水準で推移していく中、岐阜県庁からの紹介を受けて林業の将来に危機感を持った前任者が認証取得へと踏み切った。

岐阜県グループ (© 藤島斉)© 藤島斉FSC認証を、木材価格を上げるためのツールと捉えている者にとっては、東濃ひのきというブランドを持ちながら、なぜFSC認証を取得する必要があるのかと不思議に思うかもしれないが、もちろんそれはFSCのごく一面しか見ていない偏った見方である。
「詳細は分かりませんが、「環境」という付加価値をつけて材価に反映されることを期待したところもあったのではないでしょうか」と、認証取得の経緯について話すのは、東白川村森林組合企画係長の大崎正秀さん。「ただそれは、フシのない柱の価値を分かってくれる目利きの人がいつまでもいるものなのか、木材に対する伝統的な価値観が将来的にもずっと続くのか、といった不安に対しての対策だったように思えます」。

木材の輸入自由化をきっかけに、右肩下がりの低価格化へと向かっていった日本の木材市場だが、全国の木材が一様に値下がりしたわけではない。輸入材では代替の効かない床柱や化粧材に使われる銘木については、一般的な国産材の価格に比べると値下がりの勾配角度は緩やかだ。東白川村の東濃ひのきは、そうした銘木の中でも特に高い評価を得ている材である。では、そもそも東濃ひのきとは、一般的な国産材と比べてどのような違いを持つ木なのだろうか。

木の特徴、作業の特徴

岐阜県グループ (© 東白川製材協同組合)© 東白川製材協同組合桜の花を思わせる赤味と、目の細かさ、豊富な油分によって醸し出される漆器のような艶。東白川のヒノキを買いにくる業者が「この辺りでしか取れない」と、口を揃えて挙げる特徴がこの三点である。土壌の違いなのか、冬の寒さが影響しているのか、なぜこの地域のヒノキだけにそのような特徴が出るのかははっきりと分かっていない。周辺地域と比べれば日照量の多い地域ではあるが、冬の寒さが厳しく木の成長も著しく遅い。四国や九州から視察に来た人が樹齢40〜50年の木を見て、「せいぜい20年くらいしか経ってないのでは…」と思うほどゆっくりと時間をかけて成長することを考えると、「生産性という意味では、温暖な地域の方が割に合っているのではないでしょうか」と大崎さんは話す。

山での作業も特徴的で、機械化が一般的な現代林業の流れには乗らず、一本一本チェーンソーで伐って出すという丁寧な山仕事を行っている。「買い付けに来る業者さんからは、良いものが欲しいという要望が多く、市場に出した材にプロセッサーの跡が付いていると怒られるんです」と、昔ながらの丁寧な仕事が求められていることが伺えるエピソードを紹介する大崎さん。ここ数年、多少は機械化にシフトしてきているそうだが、まだまだチェーンソーでの伐採が主流。村内では三世代、四世代が同居する家が多く、「自分のお爺さんやひいお爺さん、顔見知りだった近所のお爺さんたちが植えて育てた山の木を、機械で一気に伐ってしまうのは木がかわいそうと思う人も多いようです」と、山での作業が丁寧になる背景を説明する。

消費者の変化への対策

風土がもたらす恩恵と、先達が育ててきた木への思い。この二つの要素によって生産される東濃ひのきだが、銘木としての価値がここ数年薄れ始めているという。
「例えば、以前は原木を一本一本吟味して、顧客に対して納得してもらえる材を提供する説得力のある〝頑固オヤジ〟のような製材屋さんがい大勢いました。そういう人たちが原木を高く買ってくれていましたが、ここ数年、説明しながら高く売るよりも、安く仕入れて薄利多売で量をさばいた方が賢いやり方だという世代が増えてきています。目が細かいとか、脂が多いからどうであるとか、木の魅力を語れる人が減り、最近では節のないきれいな材を見ると、プリントされたもののようだと思う世代が誕生してきています」と、世代変化に危機感を隠せない。

岐阜県グループ (© 東白川村森林組合)© 東白川村森林組合こうした変化を時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、だからといってただ指をくわえて見ているわけではない。たとえば、大崎さんの名刺には丁寧に枝打ちをして節がきれいに巻き込まれた切り株の写真がデザインされており、「微力ながら…」と、自らが広告塔となって枝打ち作業とその効果を啓蒙している。
また、東白川村では「フォレスタイル」というウェブサイトを構築し、東濃ヒノキを扱う地元の工務店と、設計士・ユーザーをつなぐ場を整えている。サイト内には間取りと概算建築費を自由にシュミレートできる「木の家シュミレーター」機能が設けられており、自由に一から設計できるのはもちろんのこと、これまでに作成されたプランをベースにして設計することも可能。費用別、建築面積別にプランを絞り込むこともでき、人気のプランには設計士からのアドバイスが受けられるランキング制度もあるなど、大変参考になるウェブサイトとしてユーザーからの評価も高い。

環境保全への取り組み

一方、環境保全に取り組む自治体や企業、団体との連携にも積極的で、東京都の港区が地方の自治体と連携して“脱地球温暖化”を目指す「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」の協定を締結。村内の山を管理する東白川村森林組合が東濃ヒノキを生産・供給する体制を整えており、港区内の大きな体育館や総合庁舎のエントランスなどに材を提供している。
また、サントリーが2003年から行っている「天然水の森」活動にも参加しており、2010年には東白川村の越原地区の国有林、2012年には同村神土新巣地区の村有林を「サントリー天然水の森 ぎふ東白川」として活用する協定を締結。東白川森林組合が水源涵養機能の高い森づくり行っている。

2012年には、音楽家の坂本龍一氏が代表を務める森林保全団体「more trees(モア・トゥリーズ)」とも協定を結び、森林組合や地域の職人、クリエイターなどが共同で活動に参加。more trees 創立10周年を記念して作られた『スツール』では材の提供も行っており、これまでとはジャンルの異なるユーザー層の獲得に加え、“節のないヒノキ材”を海外に向けて発信するという新たな局面を迎えている。 さらに、環境省などが進めるカーボン・オフセット制度も導入しており、この制度で出た利益を村内の6地区の森林管理団地に分配。作業路の維持などに利用する一方、FSC認証に加入する森林所有者への分配金として利用している。

岐阜県グループ (© 藤島斉)© 藤島斉このように、多彩な取り組みをしていることに改めて驚くが、こうした動きは、FSC認証を取得していたからこそ展開することができたのだと大崎さんは考えている。
「FSC認証について、費用対効果があるのかと問われることがあります。国内の他のFSC認証取得者とも話しているのですが、FSC認証を取得したからといって大幅な利益が出ることは将来的にないと考えています。ただ、認証を取得していることで材を選んでもらえたり、最終的に自分たちの商品を買ってもらうために説得をする最後の力としてはFSCは有効だと思います」。
もともとていねいな山仕事を続けていたため、認証取得以前と比べ、山の作業自体はそれほど変わっていないそうだが、森林のデータを管理したり、客観的に定められた基準をしっかりと守るなど、これまでの日本の林業の現場では馴染みのなかったものをFSC認証では文書化している。自分たちの山がどういう山なのか、自分たちの出す材がどういう材なのか、そういう資料を国際基準のレベルで提示できたからこそ、これまではとても繋がることなどなかった人たちとの繋がりができたというのだ。「一生懸命やっている人たちと繋がって、一緒に仕事ができるのはFSCがあってこそ。FSCは免許証のようなものですね」と、大崎さんは言う。

こうした取り組みを続けていく中、東白川村の取り組みを応援してくれる人も現れ始めた。静岡県に本社を置く(株)都田建設では、自社ではFSC認証の取得こそしないが、東白川村の取り組みに対しては応援したいということで、FSCマークの付いた東白川の柱を度々注文してくれるという。完成したら隠れてしまう柱という部材ではあるが、FSCというものがどういうものであるかを東白川村の丁寧な山作りと合わせて施主に説明し、施主が満足感を得られるような付加価値をつけて家づくりを行っているという。

グループ認証への期待

岐阜県グループ (© 藤島斉)© 藤島斉徐々にではあるが、確実に広がりを見せている東白川村のFSC認証。だが、さらに販路を拡大していくためには、クリアしなければならないことも多い。現在、東白川村のFSC認証は、岐阜県が代表を務めるグループ認証で、東白川村森林組合、飛騨高山森林組合、郡上森林組合、白川町、白川町森林組合がグループ認証のメンバーを構成している。代表となる岐阜県ではFSCの担当部署が林政部の治山課に置かれているが、FSC材をどのように流通させて販路を拡大していくかという点については、県産材流通課のような専門部署の協力が必要だと大崎さんは考える。

東白川村森林組合で現在生産しているFSC認証材は年間6000m3〜7000m3。通常の注文であれば村内で対応できるのだが、太い木が必要となる板材や、大量の認証材が欲しいという注文になると、東白川村の木だけでは対応が困難になるそうだ。近隣には東白川の材に似た特徴で大きなサイズの材を生産する地域もあり、そうした地域がグループ認証に加わわれば現在では難しい大口の注文にも対応できるようになり、「やれることも増えてくる」のだという。

将来的には「東濃ひのき」と「FSC」という二つのブランドで、海外のマーケットも視野に入れている東白川村森林組合だが、海外に売っていけば爆発的に売れるわけではないことは承知していると大崎さんは言う。一方、売れたら売れたで東白川村の材だけでは供給しきれないことは先述の通りだが、こうした供給量の問題はFSCの認証材に限った話ではなく、国内すべての林業地に言えることでもある。外国に比べ小さな規模で発展してきた日本の林業は、近隣の林業地や事業体同士でさえ交流や情報の共有が少なく、大口の注文に対して複数の林業地が共同で対応するという体制もほとんどない。ビジネスの規模が全国に広がり、さらにグローバル化が進む一方、注文に応えるだけの木材が確保できず、最終的には輸入材で対応したなどという事例はこれまでにいくらでもある話だ。木材の国内シェアが、外国からの安価な輸入材に取って代わられて久しいが、材の価格だけではなく、国内の林業地同士をつなぐネットワーク不足が輸入材にシェアを奪われる要因の一つでもあるとする声もある。

岐阜県グループ (© 藤島斉)© 藤島斉依然として続くこうした状況に一石を投じるという意味でも、岐阜県のグループ認証の今後の展開には期待をしてしまう。とくに東白川村の場合は、FSCという免許証に加え、東濃ひのきという免許証も持っているのだ。これまでの多彩な展開をみていると、「東濃ひのき」が海を渡り、「TOUNOU」という名で人気を得る日もそう遠くないように思えてくる。そのときのニーズに対して岐阜県グループが準備できているかどうかが、大きなカギとなりそうだ。今後の動きを見届けていきたい。


文:藤島斉

基本情報

【名称】
東白川村森林組合(岐阜県グループ)

【所在地】
〒509-1301 岐阜県加茂郡東白川村越原46−1

【主な樹種】
ヒノキ

【取扱製品】
原木、薪、炭

【問い合せ】

関連CoC認証取得者

東白川製材協同組合公式サイトにて「木彩工房ネットワーク」として14の事業者が紹介されています。

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