西粟倉村

「村」であることにこだわった西粟倉村の挑戦


岡山県の北東端に位置する西粟倉村。兵庫県と鳥取県に隣接し、今や中国地方に4つしか残っていない「村」のひとつである西粟倉村にFSC-FM認証林が誕生したのは2006年(平成18年)のこと。約1200haの村有林から始まった同村のFM認証林は現在2400haを超え、500名を越す山林所有者が参加するグループ認証の森となっている。

村の面積の95%が森林に覆われている西粟倉村。森林の85%を占める人工林は、もとは国有林(御林山)であったものが大正時代に払い下げとなったり、部落有林野を統一し、村有林に編入した箇所へ植林をしたのが始まりだという。戦後になると、西粟倉村は山を地元の人に分配するという全国的にもユニークな政策を実施し、その結果、現在のような細かくモザイク状に区分けされた複数の山主を持つ山となった。

村内にある私有林は約4000ha、そのうちの1/4が企業の持つ会社林で、3/4が個人所有の私有林となっている。林班図には土地の境界を示す線が細かく書き込まれ、複雑なジグソーパズルのようだが、そのパズルのワンピースを持つ山主たちが、現在、次々とグループ認証に参加している。それは一体何故なのか。

村の未来のビジョン共有する「百年の森林構想」

©藤島斉西粟倉村では、FSC認証に取り組む前後から、村のあり方を模索していた。2008年にそれは「百年の森林構想」という形で発表され、現在は村をあげて取り組まれている。

実は、2004年に西粟倉村は隣接する美作市への合併協議会から離脱することを宣言している。時は〝平成の大合併〟の真っ只中。国策として市町村合併が奨励される中、西粟倉村は村民アンケートを実施。その結果、〝心と心のつながりを育む村〟であり続けることを選択する。

一般に、市町村合併を見送った自治体には、大きな企業の工場や商業施設、発電所など核となる産業があるが、西粟倉村にあるのは村の95%を覆う森林のみ。財政が決して豊かではない同村の将来は、この森林資源をどのように活用するかにかかっており、そうした背景の中で生まれたのが百年の森林構想だった。

「森を起爆剤に森林の活性化を図り、産業を生み出していこうというのが百年の森林構想の全体像です」と話す西粟倉村産業観光課の小椋一成さん。「これまでは山の木を伐って市場に持っていき、高かった安かったという一次産業だけの世界でした。西粟倉村が目指したのは、村内で二次産業、三次産業を作り、それによって経済が生まれ、雇用が生まれるという仕組みです。雇用が創出できれば地元の人を始め、Uターン、Iターン、いろいろな人が来ます。全国的に人口が減る中で、西粟倉村に人が移り住む経済を興そうというのがこの構想です」。

西粟倉村内の山の多くは50年前後の人工林である。かつて一生懸命に植林した森林所有者たちは、材の値段が下がってすっかりと諦めムードだが、百年の森林構想では、今半分まできてるからあと50年頑張ろう、と声を掛け合って事業に取り組んでいるそうだ。

「50年生まで育てた山を管理することによって、治山、治水など災害に強い西粟倉村を作っていこうというのが構想の一つの柱です。また、林業はお金にならないと言われ続けてはいますが、いつかはお金にしたいというのが本音です。手入れを続けることによってやがて択伐する時期が来るまでは、間伐をすることによって産業を興して活性化させるというイメージです」。

構想では、役場が森林所有者から森林を預かり、預かった山の整備を森林組合に委託。10年間適切な管理をした後に所有者に山を返却するという仕組みになっており、所有者と役場と森林組合の三者の間で契約が交わされている。

川下役を担う会社の設立

©藤島斉これまでの西粟倉村の林業は、丸太を市場に持っていくところまでで完結していた。そこで百年の森林構想では、これまで川上で行っていた森林管理に加え、製品の加工や販売など二次、三次産業まで、川下に任せていたことを村内でやっていこうという構想を掲げた。その構想を実現するために設立されたのが「株式会社西粟倉・森の学校」だ。

森を一括して管理する役場に対し、森から産出される木材の加工販売を一気に引き受けるのが森の学校の役割だ。取材に応じてくれた森の学校の坂田憲治さんによれば、現在、森の学校では年間約2400m3の木材を扱っており、その約半分をFSC認証材として西粟倉村と兵庫県の日本土地山林(株)から購入しているという。

©藤島斉FSC製品としては原木換算で0・5m3の使用にとどまっているが、割り箸をはじめ、名刺入れ、フローリング材、ユニークなところではネクタイなどの製品を販売。環境意識の高い企業からは内装材や企業のノベルティ製品に関する問い合わせが入ることもあり、アウトドアメーカーのパタゴニア京都ストアーでは、短期再生材料である竹や、古民家の解体時に出た柱材、古煉瓦などと並んで、森の学校のフロアータイルが内装材として使われている他、幅木や製品を畳むための「たたみ台」には、FSC材が使われているのを見ることができる。

©藤島斉「お客様から認証材を指定されての案件があったときに、逃さず対応できるというのがFSC認証を取得していることのメリットではないでしょうか。認証材だから高く売れる云々の話ではなく、FSC製品を使いたいという人、それを探している人に応えられるのが大きいですね」と話す坂田さん。森の学校設立の背景には、西粟倉の材を消費者に届けていきたいという思いがそもそもあった。そんな同社にとってFSCは、西粟倉にたどり着くための一つのキーワードであると言えるかもしれない。

もちろん、今後は認証製品を増やし、ゆくゆくは森の学校の木製品の100%をFSC製品にしたいという思いもあり、また、100%にできれば、西粟倉村の取り組みがもっと広く認知され、引き合いも増えていくだろうと、坂田さんは考える。

©藤島斉百年の森林構想の中で誕生した森の学校だが、同社の製品や活動を支持するファンは全国に多く存在する。そんなファンにとって森の学校で作られるFSC製品は、環境に配慮した森の木という認識よりも、ファンが応援する西粟倉村の森から作られた製品であること、〝メイド・イン・西粟倉村〟を証明するツールとして機能している点は非常に興味深い。

目指すは3000haの全私有林の参加

©藤島斉製品の100%FSC化を目指す(株)西粟倉・森の学校だが、製品によっては材のサイズが足りないなど、クリアすべき問題はまだ多い。とくに現在の主力製品であるユカハリ・タイルを作るには、50年前後の山が大部分を占める西粟倉村の材だけでは足りないのが現状だ。木というものが1年や2年で成長するものでもないことを考えれば、100%FSC化になるまでには今しばらく時間が必要だが、FSCを知らない西粟倉村ファンが多数いること、また、そのファンの多くが森の学校の製品を好んで購入していることを考えれば、100%FSC化という同社のビジョンは、FSC認証の知名度向上を図りたいFSCにとっても心強い。

一方、グループ認証林を一括して管理する役場としても、森の学校への木材の供給不足は認識している。同村には3000haの私有林があるが、最終的には3000haの民有林すべてをFSC認証林にしたいという夢を持っている。壮大な夢ではあるが、百年の森林構想も7年目に突入し、村内でも「百森」と愛称で呼ばれるほどにまで浸透してきているので、全くの夢物語というわけでもなさそうだ。もちろんその影には、何度も説明会を開き、時には森林所有者を一軒一軒個別に回って説明を続けてきた役場の努力がある。

森林所有者への報告も常に透明性を意識して行われており、年に一度の実績報告会では、当年度の施業内容や来年度の予定などを報告し、施業の完了後には各森林所有者に写真付きの報告書を送付。管理にかかった費用や、売上のあった場合には金額はもちろん、売り先まで添えて報告するという。こうした徹底した取り組みが信頼を生み、グループ認証への参加を年々増加させているのだろう。

このように、所有者から見捨てられかけていた森を復活させ、森を起爆剤とした新事業という一大ムーブメントを起こした西粟倉村の百年の森林構想だが、その大元である〝林業をいかに適切に管理していくか〟という管理の指標としてFSCが一役買っていると、同村産業観光課の長井美緒さんはいう。

「〝適切な管理〟と口では簡単に言えますが、いざ実行するとなると漠然としていて難しいものです。たとえば、日本の林業では〝安全〟は職人技で、各自に依存してきたところがあります。それで良し、とした時代はいいのですが、今はそういう時代ではなくなってきています。FSCの安全に関わる指針のように、これは危ないからこうしたほうがいいという客観的なものがあるのは助かります」。

FSCの指針の中には、多少高額な装備が必要だったり、重い装備の着用を推奨するなど、これまでの慣習にない決まりに対する反発の声もあるそうだが、一方では、装備していたおかげで大事故を防げたケースもあり、そういう事例をきっかけに作業員の意識も変わっていったという。「これまでは感覚的に行われてきたことに具体的な基準を設け、文章で謳っているのがFSCです。FSCの基準に準じて行うことで、対外的にアピールできるようにもなりました」。

鉄芯入スパイク地下足袋の着用には2年の時間を要したというが、5年毎の更新監査と、年に一度の定時監査で指摘された事項を一つひとつクリアしながら、現在も少しづつレベルアップしているという。

50年後に向けての新たな構想

このように着々と構想を進めていく西粟倉村だが、その勢いはまだまだ止まらない。現在計画中の新庁舎建築計画では、西粟倉村産のFSC材での建築計画が進行中。また、林地残材の有効活用を図るため、薪ボイラーを新たに導入。すでに試運転の段階に入っており、この3月からは村内にある温泉「湯~とぴあ 黄金泉」にて本格稼働する予定で、薪ボイラーの導入によって燃料費の節約だけでなく、新たな雇用も創出できるというおまけ付だ。

120年以上にわたって近隣の市町村と合併せず、〝小回りの効く村〟であることを選んだ西粟倉村。その道のりは決して緩やかではないと思うが、孫やひ孫の世代を見据えながら活動する村には、やる気に満ち溢れた雰囲気と「村」であることの誇りが漂っている。5年後、10年後にこの村を訪ねた時にはどのような変化が見られるのか、想像しただけでワクワクしてくる。今後もこの村の取り組みを可能な限り報告していきたい。


文:藤島斉

基本情報

認証の詳細については名称をクリックいただくとご覧になれます。

【名称】
西粟倉村

【所在地】
〒707-0503 岡山県英田郡西粟倉村影石2

【主な樹種】
スギ、ヒノキ、ミツマタ

【問い合せ】
下記連絡先または、株式会社西粟倉・森の学校にお問い合わせください。

  • 電話番号:0868-79-2111 
  • メールアドレス:ka-ogura@vill.nishiawakura.lg.jp
  • ウェブサイト

関連CoC認証取得者

【名称】
株式会社西粟倉・森の学校

【取扱製品】
割箸、名刺入れ、モクタイ、フローリング材、デスクマット

【問い合せ】

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